可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 菊池風起人個展『いつでも健康的でいよう』

展覧会『菊池風起人個展「いつでも健康的でいよう」』を鑑賞しての備忘録
GALLERY b.TOKYOにて、2021年2月8日~13日。

輝くような白い歯を見せて笑う人物がさわやかな印象を与える絵画9点から構成される、菊池風起人の個展。

《動くサル》は、縦長の画面に、自転車に乗るような姿勢で前にある棒を摑んでいる青年と、クモザル(?)が青年の被る帽子に両手を載せて背中に立ち青年と同じ姿勢をとる姿を描いたもの。中央左手の青年の笑顔から彼の着る緑色のセーター、彼の穿く黒いパンツがつくる、左下の「四分円」(単位円の第1象限)に向け、右上に描かれた紫色の花から放射状の力が働くように見える。そして、その花のついた枝に手を掛けたサル、青年の腰を攀じ登るサルが、帽子に手を載せるサル以外に異時同図的に描かれており、なおかつ三匹のサルの位置と濃淡により、奥の薄い方から手前の濃い方へと時系列(サルの移動)が明快に示されている。背景の草原はびっしりと草葉が描き込まれ、上部にわずかに見える線状の青空と相俟って、畳(畳と畳縁)の印象を作り上げ、戸外と屋内とを自在に行き交うような作品に仕上げているのも面白い。

《寝ている人》は、正方形の画面を左上の頂点から右下の頂点にかけて2つの世界を隔てるかのように、上側に白いソファに寝そべる紺のセーターにライトブルーのパンツを穿いた女性を、下側に青空のもとに佇む白い犬を描く。女性を見下ろすように描く一方、犬の背後の樹木は見上げるように描くことで、白と青の色だけでなく、視座(視線)も反転されて対照的な構造を生んでいる。3頭の蝶の玩具が、それぞれ、その飛跡を表すように曲げられた針金の先に取り付けられている。これらの蝶が女性の室内と犬の屋外との境界を越えて飛び交うことで、相互の世界に貫入し合う女性の脚と並木の樹冠とともに、二つの世界を繫ぐ役割をはたしている。

《屈伸する人》は、青のストライプのカットソーにライトグレーのチノパン(?)を合わせた男性が屈んで犬に手を差し伸べる姿を描いている。左手奥から右手前に向かって紡錘形に葉を茂らせた均質な樹木が次第に大きな姿を見せて並んでいる。並木の列からの流れを受けるのが、画面右手の、しゃがむ動作をとる前の(異時同図的な)立っている男性であり、その左手の指が軽く曲げられていることで、しゃがむ男性への視線の流れを生んでいる。屈んだ男性の右手が膝の位置と犬の口元に伸ばされた位置とで二重に描かれていることも、左下の犬への視線を誘導している。左上に大きく同じ男性と犬の顔が淡く大きく表されている。男性が犬を犬の方へと眼差しを向けていないことと相俟って、かつて飼っていた同種の犬を思い出している場面とも思われる。茎の異様に長いコスモス4輪が画面の下から放射状に伸び、その花から花びら(?)が点々とどこかへと続いているのが独創的。

《みんな一緒にいる》は、ノースリーブの白いカットソーに濃紺のマイクロミニスカートを合わせた女性が、男性に両脚を抱えて持ち上げられており、女性が体を右に曲げて左手を男性の頭に置くと同時に、男性の右肩に右肘を置いて頬杖をついている様子を描く。女性の腹にはニホンザルがしがみつき、男性の左腕からはダックスフンドが体を伸ばしている。男性の右腕、女性の脚、サル(ニホンザル)、女性の胴、女性が左手に持つ紫色のリード、垂らされた女性の髪、電信柱(?)、リードを銜えるダックスフンドと、男性の顔を中心に循環運動が生じている。サルの尻尾が女性の閉じられた脚の付け根に向けられていること、男性に抱えられた犬が体を伸び出して頭を上に持ち上げていることなどからは、性的なモティーフも窺える。