展覧会『メタマテリアリズム―物質を超えて―』を鑑賞しての備忘録
日本橋三越本店コンテンポラリーギャラリーにて、2021年2月3日~15日。
「絵画(支持体や絵具)が備える物質性を強く意識し」た作品を制作している画家を紹介する企画(田口達也によるキュレーション)。水谷昌人の2点、青木豊の5点、高橋大輔の6点、田中秀和の4点、ミヒャエル・テンゲスの5点、西川茂の4点の計26点で構成。
水谷昌人《灰色の雨(Study after Velázquez/Francis Bacon)》は、ディエゴ・ベラスケス(Diego Velázquez)の《教皇インノケンティウス10世の肖像》をモティーフとしたフランシス・ベーコン(Francis Bacon)の作品の複製をキャンバスの裏に貼って縦に三等分したうちの中央部分に複数の穴を開け、その穴の位置にあった色の絵具をキャンバスの表面に射出したものを中心とした絵画。射出部以外の部分には絵具が重ねられ、もとの作品を象徴する濃淡のグレーによるストライプが射出部のフレームのように左右を縦に覆っている。キャンバスに定着された絵具であるという点で絵画を捉えるなら、モティーフとなった作品と本作との間に等号が成立することになるだろう。絵画の成立条件やプロセスの重要性について考えさせる作品だ。
高橋大輔《PW4,6/PB28/PY170,40,35/PG7,18/PR83,122》は、キャンバスに油絵具を盛土するかのように塗り重ね、左上から右下へ畝を作るようにパステル調の淡い緑・黄・青の描線を荒々しく引き、画面右手に濃い緑の植物の茎を縦に刻み込んだ作品。黄色い光や水色の雨が斜めに降り注ぎ、それを凹んだ植物が受け取って生長していく様子が連想される。
ミヒャエル・テンゲス《無題(28-16-32-28)》は白やグレーを中心に、ところどころピンク、赤、黄、緑の絵具が塗りたくられている作品。絵筆の毛先がつくる凹凸、絵筆にによって引き延ばされた絵具、絵筆が離れるときにつくられる撥ねなど、画面の細部を見ていくと激しさがあるが、全体として見たときには不思議と落ち着いた雰囲気がある。
西川茂《Hommage to Christo and Jeanne-Claude, "Wrapped Monument to Vittorio Emanuele Ⅱ"2》は、クリストとジャンヌ=クロードがたヴィットーリオ・エマヌエーレ2世の像を梱包した作品をモティーフとした絵画。公共空間におけるモニュメントを布で覆い隠すことで「不在」状況を生み出し、「失われた」存在の意味を再考させるのが、クリストとジャンヌ=クロードの梱包作品であった。それに対して本作は、梱包行為自体への再考を促す。モニュメントを覆う布が白、黒、赤、ピンク、オレンジ、緑など様々な色の絵の具によって塗られているのは、布が、人々の持つ多様な価値観を映し出すスクリーンとして機能することを指摘するためではないか。公共空間のモニュメントに対する態度で人々が「一枚」岩となろうはずがない。公共のあり方をめぐる議論は喧々囂々となる、そのことを可視化するのが梱包の生み出す表面(=布)だと指摘するのであろう。激しいタッチやと飛び散る絵具は、布(=スクリーン)が風に激しく煽られる様を表している。