可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 本間優梨個展

展覧会『本間優梨展』を鑑賞しての備忘録
JINEN GALLERYにて、2021年2月16日~21日。

頻繁に現れる格子が印象的な絵画15点から構成される本間優梨の個展。

《庭の自転車》は、タイルの敷かれた場所に置かれた自転車を横向きで描いている。タイル、自転車の前籠、背後の柵に見える格子に加え、車輪(前輪・後輪)のスポークとその影、後景の細い木の不規則な列など、格子・網・縞のイメージが画面に溢れている。自転車は白く塗り残しすように表され、主題でありながら儚げだ。部屋の窓硝子越しに見た光景らしく、ペダルの辺りに画面を左右に分割する窓枠が縦に走っている。この窓枠によって後景(庭)が、「片身替わり」的に、柵のある左手とひょろっとした蔓のような木が並ぶ右手に分けられている。ガラスが仕切る部屋の内外、タイルが仕切るテラスと庭、柵(右手は生け垣?)が仕切る敷地というように、境界も繰り返し現れる。それらの境界を越えるのは、草(植物)であり、影(光)すなわちイメージである。9と4分の3番線へ向かうためにキングスクロス駅の柱をすり抜けるように、境界を軽々と乗り越えていく力を幽鬼のような自転車に託したのかもしれない(自転車ならむしろ、E.T.か)。

メインヴィジュアルに採用されている《裏庭》は、ネットフェンスのような格子縞が塗り残すような白い線で表され、画面全体を覆っている。若葉の萌える樹木がフェンスに沿って立ち並び、その奥の建物との境界に立てられている柵やネットとの間に狭い草地がある。草地に濃い影が伸びている。人影か樹影か定かではないが、いずれにせよ影を作る存在は画面には表されていない。プラトンの「洞窟の比喩」を現代の舞台に置き換えた作品であろうか。「ネット」フェンスが象徴するのはインター「ネット」であり、それを介して世界を眺め、影だけを見て実体に目をやることがないことを揶揄しているとか解されるのだ。なお、格子などの縞模様に目を奪われがちであるが、影は作家にとって重要なモティーフであるようで、《つながる影》をはじめ多くの作品にやや不思議な印象を生む形で描かれている。

《あかい花のある景色》では、ガラス戸(ガラスサッシ)、カーテン、ネットフェンス、手摺り(笠木?)の前後に赤い花や観葉植物が描き込まれ、中景や遠景にも葉を茂らせた木々が描かれている。内と外との関係が曖昧な情景である(《午後2時》においても室内外の関係が不明瞭に表されている)。例えばクノロジーの発達によって自然と人工との区分が困難になっていくように、社会における截然とした境界がゆらいでいることをメタファーとして示しているのかもしれない。

《街角を曲がると》は、土が露出したような地面を黄色い養生シート(?)が画面右から左下にかけて横切り、それと平行に長い赤白のバーが左下のカラーコーンに向かって延びる。画面上部(奥)の位置にはアルミゲートが張られ、画面の上部中央から画面左下に向かって舗装道路が延びる。画面左端には細かなタイルが敷き詰められている。タイルが舗装道路やカラーコーンを覆い、舗装道路が養生シートに被さる。同一平面上にあるように思われる面が捻れるように重ね合わされることで、「街角を曲が」って不意に現れた工事現場から受ける唐突な印象を強めている。

《ある人のはなし4》では、左右の赤いカーテンや下の窓台を描き込むことで、絵画の窓としての性格が強調されている。