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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『第13回恵比寿映像祭「映像の気持ち」』

展覧会『第13回恵比寿映像祭「映像の気持ち」』を鑑賞しての備忘録
東京都写真美術館にて、2021年2月5日~21日。

東京都写真美術館を中心に年に1度開催されている映像作品の国際フェスティヴァル。第13回展は「映像の気持ち」をテーマに掲げ、「見る人の感情を動かす映像の力に着目し、あらためて、『動画』であること、について考え」ることが目指されている(アーティスティック・ディレクター:岡村恵子)。メイン会場の東京都写真美術館の展示室(3階、2階、地下1階)では、20組のアーティストの作品と同館所蔵の動画装置を紹介。

シシヤマザキ(3階展示室)
カメラの前で自らパフォーマンスを行い、録画された映像から取り出した静止画をプリントアウトし、その上に紙を重ねてトレースすることで、水彩タッチのアニメーションを制作している。近年の映像作品のダイジェスト《ShiShi reel 2021》を壁面に投影、その向かいに設置されたディスプレイでは、《とにかくなにかをはじめよう》、《月夜&オパール》、《ああ/良い》、《やますき、やまざき》、《YANOYA》、《YA-NE-SEN a Go Go》、《Handsome Mask》が流されている。旨いのか旨くないのか判断しかねる独特な舞踊(?)、セクシーなのかセクシーではないのか分からないキャラクターを包み込んでしまう優しいタッチの絵、素朴かつ軽妙な歌と音楽とが渾然一体となって、独自の世界を立ち上げている。作品自体が個性的かつ魅力的であるが、ちょっと見てみようという気にさせる1~3分程度にまとめている点も見事。もう一つの壁面には作家のフィギュア《BODY》を飾り、淡いピンク色の照明と相俟って、展示室は「シシヤマザキランド」といった観を呈している。作家(のフィギュア)と対峙するのは、実写映像をトレースする手法「ロトスコープ」を発明したマックス・フライシャーの《ベティ・ブープの白雪姫》。なお、作家の頭部を模したバルーン《TONGUE FACE》が3階展示室前の空間に鎮座している。蛇足ながら、『シン・ゴジラ』の影響で、「シン・ヤマザキ」に見えてしまう。

チャンヨンヘ重工業(3階展示室)
《ソウ ソウ ソウルフル》は、虹色の画面に、音楽に合わせて黒いゴシック体で綴られる、ケンジと「私」の物語。会社に戻らなければならない「私」が、雨降る上野駅で、デトロイトに行く「妙案」に取り憑かれたケンジに振り回される様を描いている。文字の表示のタイミング、時折の明滅や傾斜、それ以外にこれといった演出はない。「今3階の展示室にいて、まだ2階と地下1階にも展示を見て回らなきゃなのに、モータウンととんかつがどうのっていう訳の分からない話に付き合わされるって、どういうことなの」という気持ちで、鑑賞者はいつの間にか《ソウ ソウ ソウルフル》の「私」にシンクロしてしまう。あな恐ろし。

カワイオカムラ(地下1階展示室)
《ムード・ホール―インスタレーション2021―》は、満天の星空の荒野に立つ老人らと巨人との遭遇、プールの下に寝そべる人々や庭を走る人々、サロンに集う人々と壁面の巨大モニターに映し出される這いつくばる人、チェス盤にいる駒のような人々を眺めているスーツ姿の老人と赤いドレスの女性、という4つの映像から構成されている。作家は、「物語ることなしに、いかに物語性を喚起させ続けられるか」を試みているらしい。音楽は流されるが、台詞がない。この言葉の不在が「物語らない」状況を作り、「文字のない絵本」のような乾いた感覚を生んでいる。グラマーな若い女性たちの存在によって老人たちの貧相な姿が強調され、あるいは人々の闘争がチェス盤上の遊戯として描かれることでその意義を剥奪される。ラグジュアリーなサロンでのパーティーに集う人々の人形的動作が虚無感を強調する。鑑賞者は禿頭の老人となって、荒野で巨人と遭遇するような印象を作品から受けつつ、キャラクターたちの動きをチェス盤の駒のように眺めることになるだろう。