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芸術鑑賞の備忘録

映画『藁にもすがる獣たち』

映画『藁にもすがる獣たち』を鑑賞しての備忘録
2020年製作の韓国映画。109分。
監督・脚本は、キム・ヨンフン(김용훈)。
原作は、曽根圭介の小説『藁にもすがる獣たち』。
撮影は、キム・テソン(김태성)。
編集は、ハン・ミヨン(한미연)。
原題は、"지푸라기라도 잡고 싶은 짐승들"。

 

ルイヴィトンのキーポル。それを提げて男が建物に入っていく。受付のカウンターを抜け、ロッカーへ。47番にボストンバッグがしまわれる。
早朝、ジュンマン(배성우)がサウナで一人清掃を行っている。鏡を磨き、床を拭き、ロッカーを確認していると、47番にバッグが入ったままになっているのに気が付く。取り出そうとすると予想外に重い。バッグを開けると、中には大量の札束が入っていた。そこへ次の担当者が出勤してくる。ジュンマンは忘れ物があったからと断り、そそくさと保管庫へ向かう。サウナの配管などが剥き出しになっているバックヤードにある棚の下の段には、忘れ物のバッグがいくつも置かれている。改めてバッグの中身を確認すると、スペースを見つけてバッグを置く。1度立ち去りかけたジュンマンだったが、再びバッグのところへ戻ると、棚の奥へ押し込み、手前に別のバッグを置いて見つけづらいように細工する。
ジュンマンは自転車で帰宅する。父の刺身料理店を継いだが、経営に失敗し、サウナでアルバイトするようになっていた。家では妻のヨンソン(진경)が汚れた床を掃除していた。認知症の母スンジャ(윤여정)が粗相したのだ。スンジャは椅子に座ってテレビを見ていた。オムツを穿かないと駄目じゃ無いか。赤ん坊じゃ無いんだよ。だったらトイレに行ってくれよ。ジュンマンが妻に謝りに行くと、ソウルで大学に通う娘(이이담)から学生ローンが組めず仕事をしなくてはらないと連絡があったという。
ヨンソンがピョンタク港の男子トイレで清掃をしている。個室から出てきたテヨン(정우성)が洗面台で鏡に向かって身だしなみを確認する。旅行客で混雑する出入国審査場のカウンターの1つを開けると、行列している人々を手招きする。パスポートを確認し、指紋を採り、スタンプを押す。スマートフォンが鳴る。パク・ドゥマン社長(정만식)からの呼び出しだった。仕事を終えたテヨンは、パク社長の待つ水産加工場へ車で向かう。入り口には塞ぐように車が停められ、人相の悪い男たち3人が煙草を吸っていた。中へ通されると、遺体らしきものの入った袋を重そうに運搬する2人の男とすれ違う。赤いポロシャツ姿のパク社長が上機嫌でテヨンを迎える。綺麗にしておけと言っておいたんだがな。通路には流されたばかりと見受けられる血の跡があった。夕食はまだかなどと尋ねるパク社長は、テーブルを出して食事をする。本題の返済の件に話題が及び、テヨンが待って欲しいと口走ると、手を切る約束だったなと凄む。テヨンは付き合っていたルームサロンの社長チェ・ヨンフィ(전도연)の借金だったと訴え、当てはあるからともう1週間待つよう懇願する。こいつは魚でも人間でも活きのいい内臓が好物でね。二人のそばで「ナマズ」(배진웅)が魚を捌いて腸を飲み込んでいた。
テヨンは自宅へ戻る。姿を消したままのヨンフィに電話をかけてみるがやはり繋がらない。彼女が出ていってから部屋は荒れ放題になっていた。テヨンは暗い部屋で1人、自分にツキをもたらすと信じるラッキーストライクに火を点ける。切羽詰まったテヨンは、兄弟分の「デメキン」(박지환)を巻き込んである計画を実行することにする。

 

ロッカーのボストンバッグに入った大量の札束をめぐるクライム・サスペンス。
冒頭の運ばれるボストンバッグだけを映すシーンから良い。サウナの清掃の最中など、時折挿入されるテレビのニュースもしっかり活かされている。最初は分からない断片的なモティーフが次第に繋がっていくのを楽しめる、巧みな構成。
残酷な描写を限りなく避けることで幅広い層の視聴に耐える作品に仕上げてある。
平然と計画を進行させるチェ・ヨンフィを演じた전도연、迷いながらも金の魔力に魅入られていくジュンマンを演じた배성우が素晴らしい。グイグイと入ってくる刑事のミョング(윤제문)、子分キャラの「デメキン」(박지환)もいい("붕어"を「フナ」ではなく「デメキン」と訳す妙技。確かに、金魚はフナの変異種だ)。。배진웅の演じる「ナマズ」は超人的キャラクターとなっていて、怖さよりおかしみさえ感じてしまう。
ヨンソンとスンジャ(の関係)を描かれている通りに解するか、あるいは深読み(誤読?)するかで(ラストシーンの解釈も含め)かなり印象が異なってくるのではないか。