可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 飯嶋桃代個展『Recovery room ましましいねつるかも』

展覧会『飯嶋桃代展「Recovery room ましましいねつるかも」』を鑑賞しての備忘録
ギャルリー東京ユマニテにて、2021年2月8日~27日。

病からの治癒をテーマにしたインスタレーション《Recovery room》を紹介する飯嶋桃代の個展。

会場の床には、淡いライムグリーンのタイルで覆われた台座に設置されたオブジェ、あるいは直に床に置かれた木彫やパイプなどが所々に置かれ、それらがぐにゃぐにゃと地を這うチューブやロープによって繫がれている。タイル、チューブ、試験管といったモティーフは病室をイメージさせるのみならず、脳や身体を駆け巡る神経や血管なども連想させる。目をひくのは、木板の台上の蒲黄(傷薬などに用いられるガマ科の植物の花粉)を固めた(あるいは蒲黄で覆われた)ブロックの上を、蛾の取り付けられた振り子が削るように揺れているオブジェ。時計の調速に用いられる振り子は時間の経過とともに元に戻ること(=恢復)を、振り子により削られる蒲黄は施薬を、蛾は「胡蝶の夢」を暗示するようだ。展覧会の副題「ましましいねつるかも」は、瀕死の状態で道後温泉に浸かり恢復した少彦名神が発した言葉に由来するという。夢を見ている状態は蛾としての生であり、それが治療期間に重ねられているのであろう。床に点在する数々のオブジェは臓器を表し、それらが黄色や茶色など蒲黄をイメージさせるチューブで繫がれている。薬効が身体の隅々に行き渡る様子を表現するようであり、循環は元に戻る振り子を連想させる。入り口の正面の壁には、(上にNASION、下にINIONと記されている)頭部を表す透明のアクリルの円盤に21個の黒いスピーカーが取り付けられ、下のイコライザーなどの装置と(神経のような)銅色のコードで接続されている。スピーカーから流れるのは、脳痙攣患者の脳波をもとに制作された音楽だという(久保田翠との共作)。古楽のような(?)ピアノの単調で優しい調べに重ねられる、神経細胞の発火を表すような(?)打音が印象的で、治癒効果が期待できそうだ(個人の感想であり、効果には個人差があります)。スピーカーの右手には、楽譜や脳波の表が掲出されている。脳波や音(=振動)の持つ波のイメージもまた振り子を連想させる。