可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 内藤京平個展『ドローイング』

展覧会 内藤京平個展『ドローイング』を鑑賞しての備忘録
Bambinart Galleryにて、2021年2月27日~3月14日。

鉛筆で写実的に表した顔にペンで身体の輪郭を添えた肖像画のシリーズ13点を紹介する内藤京平の個展。作り込んだ顔の表情に対して、単純な線による裸の身体という対比が軽妙な作品群。

《mirror》では、髭を蓄えた厳めしい男性の顔を鉛筆で写実的に描き、頭部や首、肩から腕にかけて、その右側の輪郭をペンで一筆書きのように極単純に表している。とりわけ耳によって判然とするが、顔とペンによる頭部の輪郭との間にはズレがあるため、顔を左に向けた様子を表現するようである。身体の左側の線は、乳首を表す以外に何も描き入れられていない。画面の右側には、この人物の鏡像のように体の左側の輪郭線が表されているが、顔の部分は灰色と紫色の水彩絵の具で塗りつぶされている。実体と「鏡像」とにより、描かれていないはずの鏡の存在を把握できる。

《thumb》では、正面に対してやや右向きに、人物の顔が鉛筆で写真のように描かれている。頭髪はペンによる短い線を並べることで表現されている。顔の左側(人物にとっては右側)には首から肩、左腕は中途まで、胸や腹は右半身だけ線が入れられている。右腕は指先まで描き込まれ、手首から5本の指までは水彩の灰色で塗り込められている。手には立てられた親指が書き加えられ、そこには水彩は施されていない。これで親指が立てられる動作を表している。すると、人物の頭部の右側(画面に向かって左側)に描かれた目鼻と顔の輪郭線
は、顔をやや右に傾けたことを表すのかもしれない。親指を降ろして顔を正面に向けたという逆の解釈も可能であるが。

《queue》でも、写実的な顔に首から下の上半身がペンで描き込まれている。その人物の背後にも、やや薄い色の線で同様の輪郭線が描かれるが、顔は水彩絵の具で灰色と紫色とで塗り込められている。さらにその後ろには輪郭線のみからなる人物が表されている。先頭、真ん中、後ろ、それぞれの人物が、画面の下から上へと徐々に位置を変えてある。タイトル通り列になっているのだろうが、同じ人物が画面右手前に向かって移動しているようにも見える。

画面における肖像の位置(白く描き残された部分の配置)が絶妙。例えば、《dance》の右手を腰に当てて左手を挙げている人物が画面右手に寄せて描かれ、《bath time》の湯に浸かっている人物の「胸像」が画面左上に寄せて描かれる。