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芸術鑑賞の備忘録

映画『ワン・モア・ライフ!』

映画『ワン・モア・ライフ!』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のイタリア映画。94分。
監督・脚本は、ダニエレ・ルケッティ(Daniele Luchetti)。
撮影は、トンマーゾ・フィオリーリ(Tommaso Fiorilli)。
編集は、クラウディオ・ディ・マウロ(Claudio Di Mauro)。
原題は、"Momenti di trascurabile felicità"。

 

シチリア島パレルモ港湾施設で技師として働くパオロ(Pif)が巡検を終えて階段を下る。停めていたスクーターから黒いヘルメットを取り出し、業務用の黄色いヘルメットをしまう。スクーターで通勤しているのは、車の脇を通り抜けて前に出られるからだ。交差点では、信号機が赤になった瞬間、交差する道路の信号機も青に変わるまで双方の信号機が赤の瞬間に通過することで、信号待ちを回避してきた。いつもの通り信号が赤になった瞬間、パオロが猛スピードで交差点に進入すると、バンとの出会い頭事故を起こし、パオロは全身を強打する。パオロの脳裡に走馬灯のように浮かんだのは、若い頃に恋人から告げられた言葉が何を意味したのか、冷蔵庫の扉を閉めた場合に庫内は本当に消灯しているのか、ガソリンスタンドでエンジンを切った後に停車位置を直すように求められるのは何故なのか、客を待つタクシーの車列の順番はどうやって決まるのか、列車の緊急脱出用ハンマーを取り出す道具があるならハンマーを取り出す必要がないのではないか、といった疑問の数々だった。
パオロは、高齢者らでごった返す「入国審査場」で自分の順番を待っていた。自分の番号がアナウンスされ、パオロが窓口を訪れる。ちょっと召喚が早すぎやしませんか。係官(Renato Carpentieri)は間違うことなんてないと請け負う。雑誌の健康特集も必ず読んでたし、スムージーも飲んでた。しかも生姜入りで。納得いかないパオロがまくし立てるると、係官が旧式のパソコンのキーボード叩いて調べ出す。スムージーのデータは考慮されてないようだね、こりゃミスだな。ミスだって! パオロはスムージーが寄与した寿命を求める不服申し立てを行い、何とか90分プラス2分を獲得した。係官に伴われて下界へと下るエレベーターに乗り込む。細かいのを貸してくれないか、熱いコーヒーが飲みたいんだ。パオロはすぐさま紙幣を係官に握らせると、バカンスへ行ってきなよとクレジットカードを渡そうとするが敢えなく断られる。
自宅に戻ったパオロは、アガタ(Thony)に驚かれる。パオロは友人たちとパレルモセリエA復帰をかけた試合をテレビ観戦することになっていたからだ。家族と過ごしたくなってね。フィリッポ(Francesco Giammanco)は? スイミングよ。アウロラ(Angelica Alleruzzo)は? さあ、何処にいるんだか。愛してるよ。アガタはいつもと様子の異なるパオロを不審がる。職場に下絵を届けて、フィリッポを迎えに行って、買物をしないと。パオロがアガタを抱き留める。

 

パオロ(Pif)は交通事故で死ぬことで、妻や子供たちに対する自分の振る舞いを初めて省みる。
チャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」の流れを汲む作品と言えるかもしれない。地元のサッカーチームの一部リーグ昇格がかかる試合の日に設定されてたり、いったん死亡したパオロ(Pif)に許された余命が90分(92分に延長される)とサッカーの試合時間になっている点がイタリアらしい。
パオロがせっかちな人物であることが繰り返し描かれている。時間を稼ぐことで何を得たのか、否、何を失ったのかが明らかになっていく。映画の上映時間もほぼ90分に収められ、映画が主人公の「ロスタイム(minuti di ricupero)」であり、失った時間(あるいは幸福)を取り戻す(ricuperare il perduto)ための時間という構造になっている。
パオロ(Pif)の様々な回想が「現在」とシームレスに連なっているのが良い。
Pifがモテる男を演じて説得力がある。