可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 齋藤礼奈個展

展覧会『齋藤礼奈個展』を鑑賞しての備忘録
KOMAGOME1-14casにて、2021年3月17日~29日。

板、キャンバス、段ボールなどに描かれたペインティング作品18点で構成される、齋藤礼奈の個展。

会場に入って左手の壁に、段ボールに描かれた作品がある。絵画の支持体として敢えて折り曲げられたのか、作品制作以前に何かに用いられていたためなのか、横長の画面の上下は裏側へと折り曲げられ、テープで留められている。上下がやや手前に出る形で撓んでいる。白い絵具は、チューブから画面に直接捻り出されるように8の字を描き、あるいは水彩絵具を刷いたように、薄く広げられている。茶や、モスグリーンや抹茶が、段ボールの淡い茶色に調和するよう塗られ、紫やピンクの絵具がアクセントとして、厚みを持って数カ所に落とされる。段ボールの紙がアクリル樹脂の乳化剤を吸収することによる絵具のひび割れ、あるいは段ボールの中芯がつくる格子なども、画面の表情を多様に見せている。
3枚の板を繋ぎ合わせた横長の大画面が、ギャラリーの入り口の向かいにある壁面に掛けられている。木板の明るい茶色の画面には、白、茶、緑、紫などの絵具が薄く広げられ、厚く塗り込められ、飛び散らされ、あるいは画面上部から流されている。用いられている色彩の系統は段ボールの作品に近い。だが、段ボール作品の表面の乾燥したイメージに対して、木板の作品は幾筋も滴り落ちる絵具によって湿度を感じさせる。また、段ボール絵画に現れる連続する8の字や貼られたテープが人工的な印象を生むのに対して、木板作品には記号や幾何学的図形が見当たらず、自然の造形(風景)のエッセンスに触れるような感覚を生じさせる画面となっている。
メインヴィジュアルに採用されている淡い緑と藤色の画面の作品は、藤(藤棚)のある景色への連想を誘う。画面左手で画布が折り返され、折り返された画布の一部が画面上部にのぞいている。絵画が描く世界が奥へと広がっていること、あるいは画面の左側へと連なっていることを物理的に示している。また、画面左下には緑色の絵具の塊が画面からはみ出しそうに置かれているのも絵画の物質性を訴えるものだろう。木枠に張った布の余りが垂らされている作品、作品の上部を覆うように布が貼り付けられた作品、荒目の布を光画透過する作品などにも、平滑な液晶画面に表示されるイメージとは異なる、絵画という物体の放つイメージが探究されているようだ。床面ぎりぎりに置かれた作品がある一方、天井近くに掲げられた作品があるのも、作品を見る角度や作品との距離といった物理的存在への意識を鑑賞者共有してもらおうとの仕掛けと解される。