展覧会『小清水漸個展「垂線」』を鑑賞しての備忘録
東京画廊+BTAPにて、2021年3月16日~4月17日。
インスタレーション《階の庭》を中心とする小清水漸の個展。
会場の中央に展示されている《階の庭》は、11個の石を1つずつ天井からワイヤーで吊した作品。全て手で抱えられそうな大きさに収まっている石に対し、作家は特段の加工を施していないように見える。高さはそれぞれ多少異なるものの、床に触れそうに見えるものもあるくらい、いずれも床に近い位置に吊されている。11個の石は、入口側に頂点を持ち、会場奥の壁面に向かって広がる、三角形に近いプランで設置されている。「階の庭」と題されているが、階段のような上昇ないし下降は石の配置に見られない。英語のタイトル"Garden Between Steps"にも「階段(steps)」が現れるが、むしろ飛び石(steps)を想定しているのかもしれない。本展では、森円花の作曲した「生成」(入り口脇の壁面に楽譜が掲示されている)のための「楽器」が展示室に設えられている。壁面の3箇所に設置された「胴」としての白い箱から「弦」が向かいの壁や直行する壁に向かって水平に貼られていて、弦を爪弾くことで演奏することができるようになっている(受付脇のディスプレイで森円花による演奏風景が紹介されている)。水平の線は弦楽器の弦であるとともに、水平の線の連なりによって《階の庭》の吊された石を「音符」へと変換する役割を果たす。"between steps"とは、音符と音符との間であり、休符であり、「間」である。すなわち"Garden Between Steps"とは「間」に存在する、他者の存在を不可欠とする不可視の庭園であり、そこに遊ぶためには日常からの若干の浮揚が要求される。
メインの展示室と連続する小さな展示空間には、天井からワイヤーで吊った円錐形の真鍮《垂線》が展示されている。関根伸夫の《位相‐大地》に感化されて生まれた作品という。《位相‐大地》が地中の円柱を地上へと浮揚させた結果を呈示する作品であると捉えれば、《垂線》は円錐形を床からわずかに離して吊すことで、不可視の浮揚そのものを円錐(の頂点)が指し示す作品と言えよう。不可視の力への探究が作家の一貫したテーマであることが窺える。