映画『レッド・スネイク』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のフランス・イタリア・ベルギー・モロッコ合作映画。112分。
監督・脚本は、キャロリヌ・フレスト(Caroline Fourest)。
撮影は、ステファヌ・ヴァレ(Stéphane Vallée)。
編集は、オドレイ・シモノー(Audrey Simonaud)。
原題は、"Sœurs d'armes"。英題は、"Sisters in Arms"。
2014年8月。イラク西部のヤズディ教徒の村に住むザラ(Dilan Gwyn)は、画家を志す19歳。ISが勢力を拡大する中、村の守備のため派遣されていた分遣隊の兵士の1人が思わず彼女に見とれてる。やめておけ、ヤズディの彼女がお前を相手になんてしないさ。ある日、父(Darina Al Joundi)から高価な赤い絵具をプレゼントされたザラは喜ぶ。父さん、ありがとう。ザラは孔雀のような羽を持つ天使を絵に、赤い絵具を加えていく。村に駐屯していた分遣隊が密かに撤収し、ISの兵士が複数の車両で村を急襲する。部隊を率いるアブ-・マリアム(Abdelaziz Boujaada)が拡声器で住民に告げる。異教徒に慈悲を示してやろう。改宗し、金品を提出しろ。村人たちは並ばせられ、一人ずつ所持品を確認されて金目の物を取り上げられたうえ、性別や老壮に分けて車に乗せられていく。アブ-・マリアムの前に連行され、改宗を迫られたザラの父は、改宗を強制できないとクルアーンに書いてあるはずだと主張する。何故お前にクルアーンが読めるんだ。ザラの父はアブ-・マリアムに銃で額を打ち抜かれる。兄シャヒン(Roj Hajo)や母(Mouafaq Rushdie)と引き離されてバスに乗せられていたザラは、弟ケイロ(Filippo Crine)の目を覆いつつ、その光景を窓越しに目撃することになった。
荒野の中にぽつんと立つISの検問所。部隊から遅れた車両の運転手から性奴隷の売買について尋ねられていた兵士がスナイプ(Nanna Blondell)によって狙撃され、脳天を打ち抜かれる。銃声を聞いて建物から飛び出した男をコマンダー(Amira Casar)が撃ち殺し、レディ・クルダ(Noush Skaugen)、マザー・サン(Maya Sansa)とともに建物に侵入するが、蛻の殻だった。コマンダーは運転手に銃を向ける。女には殺されたくないと、彼は喉元にナイフを宛がう。コマンダーが男なんていたっけと周りを確認する素振りをすると、運転手を射殺する。
ザラたちを乗せたバスがISの性奴隷の集積所に到着する。女性たちは名前、年齢、身長、体重を尋ねられ、仕分けられていく。ザラの前にいた女性は質問に答えようとしなかったために殴られた。ザラは一緒にいたケイロを息子だと伝えるが、兵士に確認されたケイロは姉ですと答えてしまう。ザラはケイロと引き離されて「検品」されることとなった。
ISに立ち向かう女性義勇兵から成る特殊部隊の闘いを描く。
ISが、男女が同じ部屋で過ごしてはならないなどセックスに関して厳しい掟を支配地域で街宣しながら、異教徒の女性などを性奴隷として売買している二枚舌を扱っている。また、異教徒の殺害や焚書など、ISの残虐さが描かれている。他方、かつて米軍兵士としてイラク戦争に従軍経験のあるスナイプに「アメリカの失敗」が突き付けられるシーンがあるものの、出鱈目で残虐なISが勢力を拡大できた背景・原因について描かれることはない(例えば、映画『ある人質 生還までの398日』(2019)の原作であるプク・ダムスゴー〔山田美明訳〕『ISの人質 13カ月の拘束、そして生還』光文社新書(2016)には多少とは言え、言及がある)。善悪の単純化に加え、紋切り型の表現が、多様な背景を持つ個性的な特殊部隊メンバーの魅力を十分に輝かせることが出来ていない嫌いがある。
本作と共通するテーマを扱った作品に、映画『バハールの涙』(2018)がある。