可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ジェントルメン』

映画『ジェントルメン』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のイギリス・アメリカ合作映画。113分。
監督・脚本は、ガイ・リッチー(Guy Ritchie)。
原案は、ガイ・リッチー(Guy Ritchie)、アイバン・アトキンソン(Ivan Atkinson)、マーン・デイビス(Marn Davies)。
撮影は、アラン・スチュワート(Alan Stewart)。
編集は、ジェームズ・ハーバート(James Herbert)とポール・マクリス(Paul Machliss)。
原題は、"The Gentlemen"。

 

10分後に。部下に声をかけ、車を降りたマイコー・ピアソン(Matthew McConaughey)はパブに入る。カウンターで作業しているバーテンダー(Jordan Long)以外、誰もいない。ボビー、ビールと酢漬けの卵を。マイコーは真っ直ぐジュークボックスに向かいレコードをかける。テーブルにビールと卵が置かれる。王でいたければ、王らしく振る舞えばいいわけではない。王そのものでなければ。疑念の存在などあり得ない。疑念は秩序を狂わせ、破滅に至ること必定だからだ。胸ポケットから電話を取り出し、妻のロザリンド(Michelle Dockery)に電話をかける。夜は空けておいてくれ。9時にいつものカフェで。妻の様子がおかしい。…誰がいる? 妻に気を取られているマイコーに、黒いスーツの男が忍び寄り、銃を取り出す。ローザ、誰がいるんだ! 銃声が響き、グラスと卵に血が飛び散る。
レイモンド・スミス(Charlie Hunnam)が屋敷に戻る。キッチンに入ると、暗闇からグラスに入った氷を鳴らす音がする。レイモンドが音の方へとゆっくり体を向ける。フレッチャー! 窓からの明かりで革のジャケットが微かに光っている、フレッチャー(Hugh Grant)の姿があった。ブエノス・タルデス、れモンドォ! 麺棒で黙らせてやろうか! ちょいと和やかに飲みたくなってね。土曜日にあんたのお気に入りの新聞社で商談をまとめてきたところさ。一番腕利きの私立探偵様としてね。ま、煤けたちっぽけな街での話だけどな、紳士淑女の皆さん! 奴ら150万ポンド出そうって言ってんだ、俺がネタをくれてやりゃあな。俺にとっちゃいい話だが、お前さんにとっちゃ話が違ってくる。敏腕編集長のビッグ・デイヴ(Eddie Marsan)はあんたのボスと取り巻きを毛嫌いしててね、潰してやろうって息巻いてるのさ。1面に書き立ててね。大騒ぎになるだろう。あんたのボスはたんまりもうけてるんだ。ちょっとお手を煩わせたい。何の話だ? 2000万ポンドほどの支払いで、デジタルだろうが紙だろうが音声だろうが掻き集めた全てを提供してやろう、それと、俺が自ら筆を執ったささやかな脚本もな。フレッチャーは"BUSH"と題された草稿を差し出す。待てよ、ちょっと会話をした隙に何で150から2000に跳ね上がるんだ。お言葉ですがね、運が宜しいかと。私の可能な至極真っ当な要求以外に選択肢はないんですからね。業突く張りのフレッチャー様じゃないだろう、何勘違いしてるんだ、ど腐れマンコが! そう来なくっちゃ。ムカムカしてないと落ち着かねえよ。俺とならいつでも旨い酒が飲めるぜ。それにじてもお前さんがスコッチに1500ポンドもかけるとは知らなかったぜ。話してやるよ、俺の話が信用できるって分からしてやる。ゲームをしようぜ。断る。頼む。やらない。俺はゲームをしようって言ってんだよ、レイ。…分かった。

 

大麻の王としてロンドンに君臨するマイコー・ピアソン(Matthew McConaughey)は、妻のロザリンド(Michelle Dockery)と悠々自適の余生を送ろうと足を洗うことに決めるが、「事業」売却を巡り問題が生じる。
ゴシップ紙の編集長ビッグ・デイヴ(Eddie Marsan)に雇われた私立探偵のフレッチャー(Hugh Grant)は、マイコーの右腕であるレイモンド・スミス(Charlie Hunnam)に仕入れた情報を高く売ろうと企てる。物語は、探偵とは名ばかりのごろつき・フレッチャーの入手した情報を、生真面目で切れ者のレイモンドに語り伝える形で進行する。レイモンドは脚本"BUSH"の草稿をまとめており、彼の頭にある「映像」が、(部分的に)そのまま本作に重さり合わされていく。
冒頭から(実際には「冒頭段階では」と記すのが正確だが詳細は伏せる)マイコーにしろレイモンドにしろ、マフィアの大物にしては簡単に背後をとられすぎている嫌いがあるが、重厚さと軽みとを兼ね備えたスタイリッシュな画面で展開される、テンポの良い掛け合い・やり取りにすぐに引き込まれていく。作品世界を支える役者たちも素晴らしい。