展覧会『中村早紀展―かさなりあう―』を鑑賞しての備忘録
JINEN GALLERYにて、2021年5月18日~23日。
グラシンとアクリル板とを組み合わせた立体作品と、裁断したグラシンを貼り合わせた平面作品とで構成される、中村早紀の個展。
立体作品は、いずれも無題の4点。
MONO消しゴムの最小サイズ程度の半透明のアクリル板の直方体が立てられて、その上面には、同じ素材でできた「蓋」によって、6~7㎝ほどのテープ状の青いグラシンの先端部が挟まれ、残りが台に垂らされている。手業を感じさせない規格品のような立体作品になりそうなところを、ユーモラスな印象を持つのは、立てられた直方体の上部、「蓋」が挟むことによって生まれた「口」から伸びるテープが舌を伸ばしているように見えるからか。最後まで使い切ったことはあるのかと、消しゴムの付喪神が鑑賞者に問いかけている。
6㎝程度の幅を持つ青緑色のグラシンを丸めて円筒状にし、その上に透明のアクリル板を載せた作品。グラシンの底面は楕円に近いが、楕円では無い。その歪みは、アクリル板によって霞む色、わずかに台に映える青緑の光と相俟って、和やかな印象を生み、厚いアクリル板を支える薄い紙の持つ強いイメージを和らげる。
赤、黄、青のテープ状のグラシンの両端をそれぞれ3枚のアクリル板で挟んだ作品。下から2枚目と3枚目の間には赤と黄のグラシンを間を開けて挟む一方、1番下と2枚目との間に挟んだ青は黄と重なる部分ができるように配されている。透明のアクリル板越しに見る圧されたグラシンに対し、アクリル板とアクリル板の間のわずかにたるんだグラシンの表情、黄と青とが重なることで現れる緑、赤や青がつくる色味の付いた影などを楽しむことができる。
12枚のアクリル板に挟まれた6枚のグラシンのテープ。アクリル板に挟まれた位置が高いものから、幅の細い青、幅の広めの赤、水色、ピンク、幅の一番広い青緑、黄。賑やかな印象だが、側面から見ると、色彩が消える。
平面作品は、彩色したグラシンを裁断して貼り合わせた、構成と色の重なりとを見せるシリーズ(額装されて展示された20点強の他、クリアファイルに収められた作品もある)。作品によっては、質感の異なる画用紙や、水性ペンによる描き込みも施されている。
メインヴィジュアルに採用されている《わかつ》は、緑の屋根(勾配屋根)と灰色の壁とをもつ家屋を、中央に走る焦げ茶色の垂直に走る帯によって切断しているイメージ。ゴードン・マッタ=クラークが家を真っ二つにした《スプリッティング》を連想させる。「屋根」と「壁」とは左右でずらされて、右の方が低い。これは、「屋根」の緑のグラシンと「壁」の灰色のグラシンを単に等分するのではなく、形や大きさを変えること(変化)で動きないし時間を表そうとするものだろう。また、「切断面」に貼られた焦げ茶色の帯は、切断であるとともに繋ぎ合わせるというアンビヴァレントな状況が示されている。「分かち」+「合い」という共有(シェア)のメタファーである。よく見ると、イメージの下には、白(透明?)の紙が台紙のように貼られている。屋根はこれをはみ出して伸びており、シェアの広がりの可能性を示すようだ。
本を伏せるような形に赤い線を組み合わせた《はさむ》や灰色と藍色の敷面に黒い十字を組み合わせた《じゅう》など幾何学的な構成の作品がある一方、室内から窓外の雪が降る情景を描く《しんしんと》や、室外から窓越しに見える窓の影を表す《むこうがわ》、建物と建物の間に見える月を捉えた《となり》などからは小村雪岱を思わせる情緒を味わわせられる。