映画『ローズメイカー 奇跡のバラ』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のフランス映画。96分。
監督は、ピエール・ピノー(Pierre Pinaud)。
脚本は、ピエール・ピノー(Pierre Pinaud)、ファデット・ドゥルアール(Fadette Drouard)。
撮影は、ギョーム・デフォンテーヌ(Guillaume Deffontaines)。
編集は、バレリー・ドゥセーヌ(Valérie Deseine)とロイック・ラレマン(Loïc Lallemand)。
原題は、"La Fine Fleur"。
赤いワゴンがブローニュの森に急行している。停車したのはバガテル公園の門の前。同公園で、毎年恒例となっている薔薇の新品種の国際品評会が行われるのだ。白い薔薇の鉢を抱えたエヴ(Catherine Frot)が助手席をそそくさと降り、運転していたヴェラ(Olivia Côte)は複数の鉢を乗せた台車を降ろして押していく。重いわ。パンフレットを沢山刷るからよ。手伝ってくれても…。エヴは受付で係員(Charline Paul)に「ローズ・ヴェルネ」と社名を告げる。86番へどうぞ。お急ぎ下さい。テントは…。今年は出展していないんです。そうなの? 説明しましたよ、予算が無いって…。急ぎましょ! 会場には品評会の出品作品が植えられ、テントでは各社が商談を行っていた。ヴェラはパンフレットを持って来場者に話しかけて回るが反応は良くない。。エヴは鉢を持って指定された場所へと急ぐ。香り高く、角度によって表情を変える白い薔薇に彼女は執着していた。薔薇を植え終えたエヴのもとをラマルゼル(Vincent Dedienne)が訪れる。過去7年連続グランプリを受賞している大手の薔薇栽培業者の代表だ。パーティーを催しますので是非ご来場下さい。エヴはヴェラとともにラマルゼルの壮麗なパヴィリオンの前を通りがかったが、中には入らずに立ち去った。結局、今年のグランプリもラマルゼルが攫った。
エヴは優れた薔薇の育種家であったが、15年前に亡父から引き継いだ「ローズ・ヴェルネ」社は資金繰りが厳しい。ヴェラは解決策を考えようというが、今年も品評会で敗れたエヴは悲観的にならざるを得なかった。
朝、ヴェルネさんとエヴを呼ぶ見知らぬ男の声がする。社会復帰支援組織「ジョブ・アヴニール」のパパンドレウという男(Pasquale d'Inca)だった。採用の件で参りました。何かの間違いじゃないの? 私です、連絡したのは! ヴェラが飛び出してきて対応に当たる。ワゴンからフレッド(Melan Omerta)、サミール(Fatsah Bouyahmed)、ナデージュ(Marie Petiot)が降りてきた。ヴェラ、どういうこと? スタッフを採用したんです。給料なんて払えないわよ。社会復帰支援なので何とかなります。その代わり、1から指導しなければなりませんけど。
エヴ(Catherine Frot)は、父から受け継いだ薔薇栽培業「ローズ・ヴェルネ」社を倒産の危機に陥らせてしまった。先代から同社で働くヴェラ(Olivia Côte)は、社会復帰を図るフレッド(Melan Omerta)、サミール(Fatsah Bouyahmed)、ナデージュ(Marie Petiot)を採用し、事態の打開を図る。
エヴ(Catherine Frot)は育種家としてかつて優れた才能を発揮した。もっとも、冒頭のヴェラへの接し方で明らかにされている傲岸不遜な性格が災いし、ヴェラ以外に「ローズ・ヴェルネ」のスタッフはいなくなってしまった(「先代」はエヴの性格を見抜いており、ヴェラに後事を託したことも後に明らかにされる)。父が大切にしていた薔薇園という思いが強く、他のスタッフを育種に関与させてこなかったこと、また、香り高い薔薇を目指しながら(ストレスからか?)頻繁に紫煙を燻らせていることなどが、エヴが品評会で勝てない原因として示される。
厳重管理している希少種を、ライヴァルの育種場から、しかも犯罪から足を洗おうとしている人たちに盗ませるところなど、窮地に追い込まれていることを示すためもあるだろうが、エヴの行動には問題がある。だが、その問題については、エヴの育種が失敗に終わるという「因果応報」が用意されている。
育種は品種の掛け合わせによって行われる。エヴが育種した薔薇は、病気に弱く、花がバラバラとなり、香りも薄いものになってしまった。それは、父から娘へに引き継がれた「ローズ・ヴェルネ」社そのものを象徴する。すると、ヴェラによって採用された、フレッド、サミール、ナデーシュといった門外漢のスタッフが関与することは、野生種との掛け合わせの試みと言え、「新種」の「ローズ・ヴェルネ」社が誕生することに繋がるだろう。