映画『走れロム』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のヴィェトナム映画。79分。
監督・脚本は、チャン・タン・フイ(Trần Thanh Huy)。
撮影は、グエン・ビン・フック(Nguyễn Vinh Phúc)。
編集は、リー・チャータメーティクン(Lee Chatemetikool)とチャン・タン・フイ(Trần Thanh Huy)。
原題は、"Ròm"。
サイゴンにある老朽化した集合住宅。その屋根裏の隙間を寝床にしている少年ロム(Trần Anh Khoa)は、来る日も来る日も2つの数字の組み合わせに思いをめぐらせている。例えば、予め並べてある空き缶をパチンコで狙い、弾いた缶に付けてあったカードの数字を確認する。労働者の間では、公営宝くじ(Xổ số)の当選番号の下2桁を当てて一攫千金を狙う闇くじ(Số đề)が横行し、住まいを担保に借りた金を闇くじに注ぎ込む者もいた。ロムは、かつて当選番号を予想して的中させたことがあり、予想とくじの売買の仲介とで日銭を稼いでいた。公営宝くじは16時30分から当選発表が行われる。闇くじの購入は16時00分までに「賭け屋」に申し込むことで行われるが、闇くじに関わるのは違法であるため、ロムのような「走り屋」と呼ばれる仲介人に番号を書いた紙と賭け金か約束手形を委ねるのだった。「走り屋」は当選すれば仲介料を手に入れられるが、外れれば怒りの捌け口にされる。ロムが集合住宅の住人たちに当選番号を書いた紙を配って回ると、期待外れの結果に、住人たちはロムは追いかけて小突き回す。信用を失うロムの縄張りをフック(Nguyễn Phan Anh Tú)が荒らしていた。
闇くじの予想屋兼仲介者として生きる少年ロム(Trần Anh Khoa)の姿を描く。
締切時間の16時に間に合わせるため、公安機関に逮捕されないため、ライヴァルを出し抜くためといった理由で、闇くじに関わるロムはスラムを走り回る。
ロムとライヴァルのフックとの競争は、死闘を繰り広げつつ止めを刺さず、アクション映画の要素に「トムとジェリー」のような追いかけごっこのアニメの要素が付加されている。それは、フックの持つ高い身体能力を彼のアクロバティックな挙措で示すことで、フックがロムに対して手心を加えているとの印象を作っていることで明らかである。
映画『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)のラティカーのようなヒロインは登場しない。ロムは、ひたすら自分を置き去りにした両親の姿を思い求め、それを生きる力に変えている。叩きのめされても、穴に落ちても、ロムは必ず立ち上がる。
斜めの構図、あるいは画面に斜めの線を取り入れる場面が目立つ。ロムの不安定な状況を強調している。
数字に一喜一憂し、あるいは弱者同士で啀み合う構図は、サイゴンのスラムだけに当て嵌まるものでは決してない。普遍的な社会の戯画になっている。