可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『復讐者たち』

映画『復讐者たち』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のドイツ・イスラエル合作映画。110分。
監督・脚本は、ドロン・パズ(Doron Paz)とヨアブ・パズ(Yoav Paz)。
撮影は、モシェ・ミシャリ(Moshe Mishali)。
編集は、エイナ・グレイザー=ザーヒン(Einat Glaser-Zarhin)。
原題は、"Plan A"。

 

水の中を男がゆっくりと沈んでいく。想像して欲しい。何の罪もない兄弟や姉妹、両親、子供たちが殺されたとしたら、どうするか。
台所にいる母親(Barbara Bauer)のもとに幼い娘がやって来て、表に男の人がいると告げる。窓越しに姿を確認した母親は顔をこわばらせ、娘にすぐに父親のクレメンス(Eckhard Preuß)を呼びに行かせる。クレメンスは、また物乞いでも来たか、何か盗られてないかなどとゆっくりと階段を降りてくるが、外にいる人物が誰だか分かると表情を変え、すぐさま銃を手にして表に出る。傷んだ外套に身を包んだ痩せた男は憔悴しきっている。強制収容所に送られたユダヤ人のマックス(August Diehl)だった。妻と娘は戻って来ていないか? なぜ密告したんだ? 敷地に立ち入るな! クレメンスは玄関で固唾を呑んで様子を見守っていた妻子を家に入らせると、銃床でマックスの顔を思い切り殴りつける。戦争が終わったからって安心できるなんて思うなよ。
夜、マックスはかつてシナゴーグであった廃墟に辿り着く。焚き火で暖をとり、手を温めると、壁に妻子の姿を描き出す。マックスが絵に集中していると、いつの間にか脇に男が立っていて、善行を積んで生き残ったのか、悪行を重ねて生き残ったのかと問う。アブラハムと名乗る男は、自らは死に神に魅入られたが生き延びたと訴え、誰も俺を殺すことはできないと大声を上げてみせるると、静かにしろと近くの住人からモノが投げつけられる。アブラハムは、この国にいても碌なことは無いと、「パレスチナ」に渡って生活をやり直そうとマックスを口説く。妻子を探し出さなくてはならないマックスは、アブラハムとともに難民キャンプまで行動をともにすることに決める。
2人で林道を歩いていると、突然アブラハムが肉の匂いがすると木立の中に分け入っていく。マックスが止めるのを聞かず、アブラハムは斜面を降りていき、スポーツに興じている兵士たちのトラックに入っていく。その様子を木の陰に隠れて見ていたマックスの背後に銃を手にした兵士ミハイル(Michael Aloni)が立っていた。撃たないでくれ。狼狽えるマックス。心配することはない。兵士たちは、イギリス軍の指揮の下、ドイツで活動していたユダヤ旅団だった。マックスとアブラハムは彼らのトラックで難民キャンプに向かう。
難民キャンプに到着したアブラハムはベッドで寝られると狂喜する。マックスは尋ね人の掲示板を見付けると、すぐさま妻子の似顔絵を描いた紙を貼り出す。

 

以下では、冒頭以外の内容についても触れる。

ナチス政権の下、隣家のクレメンス(Eckhard Preuß)の密告によって妻子とともに強制収容所に送られたマックス(August Diehl)は、ドイツの敗戦後、クレメンスを尋ねる。妻子が戻っているかもしれないと期待したからだ。妻子の姿はなく、クレメンスに手荒く追い払われたマックスは、難民キャンプに辿り着き、そこで妻子が殺されたことを知る。マックスはイギリス軍憲兵を装って密かにナチスの残党狩りを行っていたミハイル(Michael Aloni)らに加わった。
ユダヤ旅団とともにナチス狩りの最中、返り討ちに遭ったマックスは、アンナ(SYLVIA HOEKS)によって救われる。彼女は、ホロコーストを生き延びたユダヤ人によって組織され、ナチス高官だけでなく民間人に対しても報復を行っていた「ナカム」(נקם:ヘブライ語で「復讐」の意)のメンバーだった。ユダヤ旅団の報復活動が当局に知られるところとなり、ベルギーに配置転換されることになると、マックスは「ナカム」に身を投じて報復を継続することを決意する。
原題の"Plan A"とは、ニュルンベルクの水道に毒を混入しようとした「ナカム」による報復計画。本作は、"Plan A"の顛末を描くもの。
マックス(August Diehl)の登場シーンから、その姿に目を奪われる。
報復という抗いがたい欲求をテーマとした作品。ドイツ映画『ラン・ローラ・ラン(Lola rennt)』(1998)的展開も。
言語はドイツ語ではなく、全篇英語。