可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『イン・ザ・ハイツ』

映画『イン・ザ・ハイツ』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のアメリカ映画。143分。
監督は、ジョン・M・チュウ(Jon M. Chu)。
原作は、リン=マニュエル・ミランダ(Lin-Manuel Miranda)のミュージカル"In the Heights"。
脚本は、キアラ・アレグリア・ヒューディーズ(Quiara Alegría Hudes)。
撮影は、アリス・ブルックス(Alice Brooks)。
編集は、マイロン・カースタイン(Myron Kerstein)。
原題は、"In the Heights"。

 

カリブ海の浜辺を臨む海の家で、ウスナヴィ・デ・ラ・ヴェガ(Anthony Ramos)がアイリス(Olivia Perez)ら4人の子供にワシントンハイツの物語を語って聞かせている。
ニューヨーク市マンハッタン北部にあるワシントンハイツ。早朝、5時半。ラジオからは熱波襲来と市長による節電要請のニュースが流れている。うだるような部屋のベッドに寝ていたウスナヴィが目覚まし時計を止める。起床したウスナヴィは地元で「祖母ちゃん[abuela]」で通っているクラウディア(Olga Merediz)に薬をちゃんと飲むよう伝えて家を出る。経営する雑貨店[bodega]に向かうと、ピート(Noah Catala)がシャッターに落書きをしているのを見咎め、追い払う。シャッターを開けたところへ、売り声をあげながらカートを押すプエルトリカンの氷売り(Lin-Manuel Miranda)が通りがかり、挨拶を交わす。ウスナヴィは店に入ってカウンターを飛び越えると、コーヒー販売の準備を始める。壁にはドミニカ共和国を中心としたカリブ海の地図が描かれ、カウンターのデスクマットの下にはビーチや船の写真が挟まれている。猛暑のためか、牛乳を入れていた冷蔵庫が壊れていた。まずいな、苦いコーヒーを買うやつなんていないぞ。そこへクラウディアが現れる。祖母ちゃん、冷蔵庫がイカレてコーヒーはミルクなしだよ。母ちゃんのレシピを試してみな、コンデンスミルクを入れるんだよ。ウスナヴィがいつも買っている宝籤を祖母ちゃんに差し出すと、忍耐と信仰だよ[Paciencia y fe]と叫んで立ち去る。表の果物のカヴァーを取り外してウスナヴィが開店準備を終えた頃、ワシントンハイツの住人たちの倹しい1日もまた始まる。無線配車会社を経営するケヴィン・ロサリオ(Jimmy Smits)がいつものようにコーヒーを買いに来た。宝籤も20ドル購入するという。今日はツイてるのかい? スタンフォードから娘(Leslie Grace)が戻ってきてるんだ。続いて、美容室のダニエラ(Daphne Rubin-Vega)、カルラ(Stephanie Beatriz)、クーカ(Dascha Polanco)が来店。クーカは去り際、ウスナヴィに熱い眼差しを向ける。そこへ店員のサニー(Gregory Diaz IV)がようやく現れる。遅いぞ! 怒ってないよね。次々に訪れる様々な客の相手をしていると、ロサリオの会社で働いているベニー(Corey Hawkins)が顔を出す。雑談を交わしているところへ、ウスナヴィが思いを寄せるヴァネッサ(Melissa Barrera)がやって来る。ベニーが今日こそ口説けとけしかけるが、ウスナヴィはヴァネッサにいつものようにコーヒーを奢るだけに終わるのだった。

 

ウスナヴィ・デ・ラ・ヴェガ(Anthony Ramos)はニューヨーク市マンハッタン北部にあるワシントンハイツで雑貨店を営んでいる。母を亡くして以来戻ったことのないドミニカ共和国で父の経営していた店を再建するため、その元手を貯めている。彼に「ウスナヴィ[U.S.Navy]」と名付けた父が他界した後は、地元で数多くの子供たちの面倒を見て「祖母ちゃん[abuela]」と呼ばれるクラウディア(Olga Merediz)に育てられた。ウスナヴィが思いを寄せるヴァネッサ(Melissa Barrera)は、美容室で働きながらファッション・デザイナーになることを夢見て、ダウンタウンへ引っ越そうとしている。ヴァネッサの勤める美容室も移転が決まるなど、物価の上昇で町の風景は変わりつつあった。ウスナヴィの友人ベニー(Corey Hawkins)が勤めるロサリオ無線配車会社も、会社の建物の半分をクリーニング店に売却した。ベニーのボスで経営者のケヴィン・ロサリオ(Jimmy Smits)は、娘のニーナ(Leslie Grace)が通うスタンフォード大学の学費を捻出しなければならなかったのだ。ヒスパニックの街「ワシントンハイツ」で初めて一流大学に進学したニーナは、地元の期待を一身に背負っていた。そのニーナが久々に戻ってきたが、彼女には伝えなければならないことがあった。

同名ミュージカル作品を原作とするミュージカル映画。華やかで見応えのあるダンスと歌とであっという間の143分。
ドミニカ共和国プエルトリコなどヒスパニック系の住民が住むニューヨーク市マンハッタン北部のワシントンハイツは、物価の上昇で立ち退く住人が増えていた。倹しい生活を送りながら夢を追う人々の姿を、ウスナヴィ・デ・ラ・ヴェガ(Anthony Ramos)、ウスナヴィが思いを寄せるヴァネッサ(Melissa Barrera)、ウスナヴィの友人ベニー(Corey Hawkins)、ベニーのかつての交際相手ニーナ(Leslie Grace)を中心に描く。
熱波が襲来する中、停電が引き起こされることが告知される形で物語が進行する。巨大な資本の「波」に呑みこまれる「無力な[powerless]」(≒電力供給の無い)人々が、信念や愛国心を示し(fly the flag)て必死に生きる姿を描いている。
ヒスパニック系の心意気を描く"Carnaval del Barrio"のシーンには、停電の夜、クラウディア(Olga Merediz)が見る夢を描く"Paciencia y Fe"が先行する。そこではクラウディアがフィーチャーされ、移民の先駆者たちの姿を描く。先人たちの努力の上に現在が積み重ねられていることを示して、先人の灯を絶やさず引き継げというメッセージが送られる。