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芸術鑑賞の備忘録

映画『少年の君』

映画『少年の君』を鑑賞しての備忘録
2019年製作の中国・香港合作映画。135分。
監督は、デレク・ツァン(曾国祥)
原作は、玖月晞の小説『少年的你,如此美丽』。
脚本は、ラム・ウィンサム(林咏琛)、リー・ユアン(李媛)、シュー・イーメン(许伊萌)。
撮影は、ユー・ジンピン(余靜萍)。
編集は、チャン・イーボウ(張一博)。
原題は、"少年的你"。

 

2015年。英語学校で授業が行われている。黒板には、"This used to be a playground."、"This was a playground."、"This is a playground."と並べて書かれている。"used to"と"was"の違いが分かりますか。講師のチェン・ニェン(周冬雨)が説明する。どちらも過去を表しますが、"used to"には「失われた」というニュアンスがあります。チェン・ニェンが例文を発音すると、生徒たちが真似て発音する。
2011年。北京大学や精華大学を目指す生徒たちが鎬を削る、ある進学校。大学入試「ガオカオ[(统一)高考]」が近づく中、3年生のチェン・ニェンらは教室で机に積んだ参考書や問題集に必死に取り組んでいる。校庭で悲鳴が上がる。生徒たちが廊下に出て校庭を見下ろす。イヤホンをしていたチェン・ニェンも騒ぎに気が付き、校庭を見に出る。すぐさまチェン・ニェンは階段を駆け下り、校庭に出て、生徒たちが遠巻きにしている場所へと近づいていく。チェン・ニェンは上着を脱ぐと、それをフウ・シャオディエ(张艺凡)の身体に掛ける。彼女は校舎の屋上から身を投げたのだった。学食に並んでいたチェン・ニェンにウェイ・ライ(周也)が気が付き、ルオ・ティン(刘然)とスー・ミャオ(张歆怡)とともに近づく。英語得意でしょ、教えて欲しいの。…時間が無いから。時間の無駄だって言うの。チェン・ニェンは立ち去る。教室にいたチェン・ニェンが職員室に呼ばれる。担任(孙岩)ら学校関係者とともに刑事のラオ・ヤン(黄觉)やチョン・イー(尹昉)らがいて、自殺したフウ・シャオディエについて質問される。チェン・ニェンが遺体に上着をかけたことから、親しい間柄だと考えられたのだ。チェン・ニェンは、彼女は痛ましい姿を晒したくはなかっただろうからとだけ答えた。チェン・ニェンが教室に戻ると、自分の椅子が赤いインクで汚されていた。かつていじめられていたフウ・シャオディエも受けていた嫌がらせだった。担任が授業を開始しても着席できないチェン・ニェンに気が付き、生徒たちに仲良くするよう言い含める。下校時、チェン・ニェンはウェイ・ライらに待ち伏せされ、嬲られる。フウ・シャオディエの自殺の件の口封じのためだった。3人から解放されたチェン・ニェンは、若い男が同世代の3人組に暴行されているのを目撃する。通りがかりに通報したチェン・ニェンは掴まり、電話を壊され、財布から金を抜かれた上に、殴られる。許して欲しければシャオベイ(易烊千璽)にキスしろと強制され、チェン・ニェンは殴られ続けていたシャオベイを救おうとキスをする。すると、シャオベイが渾身の力で反撃を開始し、何とか3人組を追い払うことができた。シャオベイは奪われた金の代わり金を差し出し、壊れた電話を直すために修理屋に連れて行く。部品代だけ払ったシャオベイは電話を分解し出す。直せるの? 盗品を捌いてるからな。前にも壊されたことがあるのか? 大した情報なんてないからいいの。帰宅すると、美容マスクをした母親のチョウ・レイ(吴越)がいた。遅かったじゃない。借金を返済するために怪しげな美容マスクの販売に手を出した母親は、顧客とトラブルを起こし、不在がちであった。

 

ウェイ・ライ(周也)らのいじめのターゲットだったフウ・シャオディエ(张艺凡)が自殺すると、事件の口封じもあってチェン・ニェン(周冬雨)が新たなターゲットになった。チェン・ニェンの母親チョウ・レイ(吴越)は借金苦から怪しげなビジネスに手を出し、不在がちになっていた。大学入試が近づく中、窮地に追い込まれた孤独なチェン・ニェンは、街で偶然出会ったチンピラのシャオベイ(易烊千璽)に惹かれていくのだが……。

陰惨ないじめをテーマにしているが、チェン・ニェン(周冬雨)とシャオベイ(易烊千璽)は、どんなに汚く過酷な環境にあっても、清潔感のある美しさを失うことがない。そしてプラトニックな結び付きは2人を一層輝かせる。
チェン・ニェンの母親チョウ・レイ(吴越)はトラブルメイカーだが、チェン・ニェンは最高だとか、自分たち母娘が孫悟空の生まれ変わりであるとか発言する。そのポジティヴさが、チェン・ニェンをどこかで支えている。そして、それはフウ・シャオディエ(张艺凡)には無かったものなのかもしれない。
いじめの主犯であるウェイ・ライは胸糞が悪くなるヴィランであるが、美しい周也が徹底的に演じていて見事。彼女が悪女であるからこそ、チェン・ニェンの輝きがいや増すのである。