可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 玉山拓郎個展『Anything will slip off/If cut diagonally』

展覧会『玉山拓郎個展「Anything will slip off/If cut diagonally」』を鑑賞しての備忘録
ANOMALYにて、2021年7月17日~8月14日。

大小2つの展示空間を用いた玉山拓郎の個展。とりわけ大きい方の展示室は、SF映画のような音響に包まれる照度を下げた空間全体がインスタレーションを成している。

天井から垂直に降りる鎖で吊された紫色のモップ。その真っ直ぐの柄は20~30度の傾きで下に向かい、途中で綺麗な円を描いた後、房糸代わりの紫色の髪の毛を垂らす。但し、コンクリートの床には届かない。鎖の部分から全体が右回りの運動を続けている。柄は、円に対する接線のようで、円を地球とすれば、平行に入射する太陽光線のイメージとなる。あるいは、回転運動を「自転」と捉えれば、地軸の傾きに比せられるかもしれない。
壁面に木板のフロアパネルが貼り込んである。そこに取り付けられた円形の鏡の中央から銀色の支柱が90度の円弧を描いてコンクリートの床へ向かい、電球と倒立したランプシェードに接続する。床面が90度傾いて、コンクリートの床が壁面になったかのようである。フロアスタンドはその変化に対応すべく恰もシャクトリムシのように行動している。
コンクリートの壁の高い位置に2枚の白い皿が並んで取り付けられている。皿にはトマトソースが付着したような赤い汚れがある。その下の床には、載るべき皿を失ったミートソースのスパゲティが2皿分落ちている。スパゲティ・モンスターは空を飛ぶのだろうが、スパゲティは落下するだけである。すなわち、インテリジェント・デザインの否定を見出すことも不可能ではなかろう。
エメラルドグリーンの座面を持つカウンターチェアーが3脚置かれているのは、水色に塗ったベニヤ板で組まれたカウンター。塗料が薄く木目が見えるために水面のようなデザインとなっている。床に対して水平なカウンターの天板には、ガラスコップが置かれている。その「水」の表面は傾斜がついている。カウンターを覆うように設置されている、7列9行で表裏2段(表側が黄で裏側が青)の蛍光灯の「天井」と平行になっている。椅子が人々を、カウンターが一般的な社会を表すなら、コップは科学の世界であり、斜めになった水(水面)は量子力学によるパラダイムシフトであろう。蛍光灯は宇宙であり、その「宇宙」(傾く「天井」)をより正しく表すことができているのは科学界(コップの中の傾く水面)であるが、人々(床と平行な座面・天板を持つ椅子・カウンター)はコップの水に違和感を覚えるだけだ。
白いスプレーボトル2本が向き合う形で癒着している作品や、朱色のモップ2本が「∩」状に繋がっている作品など、「対」の作品が見られる。円形の鏡にトマト、レタス、バンを置くことでハンバーガーを完成させる作品と合わせて解釈すれば、オブジェである「物質」に、鏡像を「反物質」のアナロジーとして提示したものと解することもできそうである。