可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『子供はわかってあげない』

映画『子供はわかってあげない』を鑑賞しての備忘録
2021年製作の日本映画。138分。
監督は、沖田修一
原作は、田島列島の漫画『子供はわかってあげない』。
脚本は、ふじきみつ彦沖田修一
撮影は、芦澤明子
編集は、佐藤崇。

 

時折列車が轟音を立てて通る線路脇の人気の無い通り。寡黙な店主が1人で切り盛りする小さな酒場が開いていて、背中を丸めた男が1人カウンターで静かに酒を飲んでいる。セメント伯爵! 男に声を掛けたのは、赤いショールを羽織り、胸には大きなリボンをつけた、桃色の髪の少女。男は人違いだと相手にしない。だが、少女はセメント伯爵の子である、モルタル櫻井孝宏)とコンクリ(鈴木達央)を伴っていた。父さん! 子どもたちの姿に心を動かされたセメント伯爵(浪川大輔)は、立派な建造物を造るモルタルやコンクリと違い、水が無ければ何にもできないと自らを卑下し、自分は父親の資格は無いと溢す。そんな伯爵の心に入ったひびを修復する少女。彼女こそ、魔法の鏝で立ちはだかる壁を塗り込める、左官少女KOTEKO(富田美憂)だった。
リヴィング・ルームのソファに座り、『魔法左官少女KOTEKO』に見入って涙を流す朔田美波(上白石萌歌)。帰宅した父親の清(古舘寛治)もいつの間にかソファの背もたれに腰かけ、画面を見詰めている。テーブルでは母親の由起(斉藤由貴)が寿司飯を団扇で扇いで冷ましている。弟が風呂から上がって騒ぎ、由起が団扇を取らせて寿司を作る手伝いをさせようとするが、ふざけてばかり。クロージング・クレジットでエンディング・テーマが流れると、美波と清が歌い踊る。家族はうるさく駆け回る弟に襲いかかり、「海苔巻きの刑」を執行するのだった。
岩高の水泳部に所属する2年生の美波が、プールで背泳ぎの練習をしている。ミヤジ(湯川ひな)にタイムを計ってもらう。合図を受け、スタート。水中から身体が浮き出してくる。美波の顔が笑っているのは、彼女が本気になっているから。ターンして折り返す。いいよ、ラストスパート! ミヤジが声をかける。好記録を出すことができたが、美波の心は屋上に奪われていた。校舎の屋上で、誰かが白い大きな画面に向かって絵を描いているのが目に入ったのだ。屋上って入れたっけ? 鍵閉ってるから無理でしょ。顧問(坂口辰平)が部員たちを前に訓示する。夏休みの大会で3年生は引退だ。急にタイムが伸びる訳でもないし、張り切りすぎると逆効果だ。な! 調整に専念するように。な! 万年予選敗退の岩高水泳部らしい。顧問が部長に一言声挨拶させると、部活は終了。顧問に職員室に呼ばれたミヤジと後で落ち合う約束をして、美波は屋上に向かう。校舎ではまだ部活が行われていて、美波は生徒たちの間を縫うように廊下を抜け、階段を駆け上がる。屋上のドアの鍵はかかっていなかった。屋上に出ると、墨で描かれたKOTEKOとモルタルの絵、そして長い筆を手にした男子生徒(細田佳央太)の姿があった。

 

高校2年生の水泳部員・朔田美波(上白石萌歌)は、偶然、書道部員・門司昭平(細田佳央太)と同じアニメのファンであることを知って親しくなる。昭平は由緒ある書家の息子で、アニメを見に訪ねた彼の家で、美波は、16歳の誕生日に実の父から贈られたのと同じお札を発見する。お札の書は「光の匣」という新興宗教のもので、門司家が教祖の代筆を担当していたのだった。探偵を雇って実の父を探し出すという美波に、昭平は探偵業の経験のある兄・明大(千葉雄大)を紹介することにする。

以下、冒頭以外の内容に触れる。

朔田美波(上白石萌歌)は、門司昭平(細田佳央太)が実家で小学生を相手に書を指導するのが様になっているのに感心する。昭平曰く、教わったことは教えることができる。ところで、朔田美波(上白石萌歌)の父・藁谷友充(豊川悦司)は、かつて他人の頭の中にあるものを見通すことができた。それは、生まれついて持っていた能力で、教わったものではないし、他人に教えることもできなかった。それでは、親の役割は教えてもらえるものだろうか。幼い頃に美波と別れた友充は、水泳部の合宿という名目で家を出て訪ねてきた美波と接する中で、父親の役割を果たそうと奮起する。そして、「死体」となることで水に浮かぶ技術を美波から教わった友充は、父親が役割ではなく存在であることに開眼する。
友充は、美波が義務教育を終えた年齢になって初めてメッセージを送る、しかも、お札というヒントしか与えない。娘が自分に対して関心を持っているかどうかを見極めようとしている。じんこ(中島琴音)が友充にやたら懐いているのは、友充が娘代わりにじんこを大切にしていることを窺わせる。
セメント伯爵は、水が無ければ使い物にならないセメントに、酒(=「水」)がなければ何もできない男=父親の姿を重ねたキャラクター。友充のメタファーとなっている。ずっと「水」泳をしてきた美波は、セメント伯爵の子・コンクリである(美波のベッドにコンクリの人形が置かれている)。
シーンを細かく割らずにできる限り1つのカットで自然な流れとして見せようとしているところが良い。それだけにセリフが漫画寄りで不自然な感じを受けることがあったが、漫画が原作の上、主人公がアニメーションを愛好していることを踏まえれば、やむを得ないのかもしれない。
美波と友充との関係が強く訴えるために、その分、美波と昭平との関係が光景に退いている。それもまた、内気な昭平の性格を表しているとも言える。美波の水泳大会を観戦しにいった昭平が、試合後の美波と話していて、美波の家族がやって来ると、静かにその場を離れていくところにも彼の内気さがよく表現されていた。
じんこが美波と別れる際に、寂しさからとる素っ気ない態度も良い。