可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ONODA 一万夜を越えて』

映画『ONODA 一万夜を越えて』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のフランス・ドイツ・ベルギー・イタリア・日本合作映画。174分。
監督は、アルチュール・アラリ(Arthur Harari)。
脚本は、アルチュール・アラリ(Arthur Harari)とバンサン・ポワミロ(Vincent Poymiro)。
撮影は、トム・アラリ(Tom Harari)。
編集は、ロラン・セネシャル(Laurent Sénéchal)。
原題は、"Onoda, 10 000 nuits dans la jungle"。

 

1974年1月。一隻の船がルバング島を目指している。船が接岸すると、1人乗船していた鈴木紀夫(仲野太賀)が、簡素な波止場に飛び移る。トラックに乗せてもらい山間部へ向かい、トラックを降りると川沿いにジャングルを進む。開けた岸辺にテントを張ると、日章旗旭日旗とを掲げ、カセット・テープで『北満だより』を大音量で流す。アカシアの花散る頃に…。そのとき、ジャングルに潜む小野田寛郎津田寛治)は、背中に枝葉を大量に背負い、銃を携えながら、手折った花を亡き戦友に手向けていた。
1944年。若き小野田寛郎(遠藤雄弥)は、航空訓練に参加したが高所恐怖症で叶わず、特攻に参加する勇気も無く、地元の和歌山で酒に溺れていた。陸軍少佐の谷口義美(イッセー尾形)が、誰もいない居酒屋に1人いた彼を探し出して声をかける。陸軍中野学校二俣分校にスカウトするためだった。
戦地に向かうことになった小野田は、父(諏訪敦彦)と対面する。父が注ごうとした酒を拒み、任地についても口を閉ざした。父から短刀を渡され、お前の身体は国のものだから敵の手に渡してはならないと告げられる。
小野田は陸軍少尉としてルバング島へ派遣された。船で1人ルバング島に降り立った小野田は、到着を待っていた兵士とともに車で野営地へと向かう。拝命している飛行場と港湾の破壊工作を直ちに遂行しようとするが、指揮官である早川中尉(吉岡睦雄)や末廣少尉(嶋田久作)らに、そもそも小野田に指揮権はない上に戦地の現況を把握できていないと拒否される。敵艦の迫る中、任務は急を要すると、弾薬を洞窟内に隠す作業などに疲弊した兵隊を使う小野田に、早川中尉は激昂する。ところが早川中尉は結石のために指揮を執ることが困難になっていた。敵艦が襲来し、艦砲射撃が始まった。野営地も被弾し、早川中尉は小野田の目の前で火に包まれた。小野田はテントにいる傷病兵も連れて一旦山中に退避しようとするが、痩せ衰えた兵士(伊島空)たちは早晩死に至る運命を自覚しており、動こうとしなかった。小野田たちが野営地を離れて間もなく、自決用に渡したダイナマイトの爆発音が空気を震わせた。
追い込まれた兵士たちは些細なことで喧嘩に及ぶようになった。生き残りのために二手に分かれようという末廣少尉の提案を、小野田は小塚金七(松浦祐也)と相談して使えそうな兵士を選りすぐることで受け容れることにする。小野田は小塚の他に、島田庄一(カトウシンスケ)、赤津勇一(井之脇海)、「水戸の3兄弟」で部隊を編成する。

 

太平洋戦争末期、フィリピンのルバング島に派遣された陸軍少尉・小野田寛郎(遠藤雄弥/津田寛治)が、敗戦を知らずに、友軍の到来を待って続けた孤独な抗戦を描く。
名匠クリント・イーストウッドをしても『硫黄島からの手紙』(2006)の日本人俳優のキャスティングには失敗していた。だが、本作のキャストは皆素晴らしい。小野田寛郎を演じた遠藤雄弥と津田寛治はもとより、小塚金七の松浦祐也も良かった。彼らに比べると出演時間は少ないが、(若干アラーキーっぽい外見の)温和な雰囲気の底に湛える狂気をかすかに覗かせる谷口義美を演じたイッセー尾形も強い印象を残す。
孤独な抗戦を長年続けた小野田寛郎が描かれる作品ではある。けれども、ルバング島で暮らしている人たちこそ悲劇であったということが十分伝わる作品でもある。