可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 内田麻ゆ・北山翔一・鈴木友晴三人展『異想・夜想・妄想』

展覧会『三人展―異想・夜想・妄想―内田麻ゆ・北山翔一・鈴木友晴』を鑑賞しての備忘録

日本橋髙島屋美術画廊Xにて、2021年12月22日~2022年1月10日。

原真一の選出した3人の彫刻家を紹介する企画。内田麻ゆの彫刻4点、北山翔一の彫刻6点、鈴木友晴の彫刻6点・陶器12点・絵画5点を展観。

内田麻ゆ
《SWAN》(200mm×300mm×200mm)は大理石彫刻。中央下部の腸骨から腰椎が湾曲して上方の頸椎へ。その頸椎を両肘で挟み、方杖をつく少女の像と連なる。少女の首の周りで左右に分岐するように、「頸椎」は少女の背後で広げられた大きな翼へと接続する。少女のスカートの周りを7羽の白鳥が取り囲む。少女と白鳥との世界の背面には顔が表わされていて、中央で割られ左右に押し広げられた頭部の中に存在していることが分かる。同じく大理石彫刻《GIRLS》(220mm×270mm×250mm)の少女と2羽の鳥(鸚哥?)とは鏡像のように左右対称に(左右どちら側にも少女と2羽の鳥が)配されているが、《SWAN》の白鳥は、少女の左右に3羽と4羽と非対称に並んでいる。両者の対比により、《SWAN》が人間(の頭部)の中――一見対称的で、その実非対称の自然界――を舞台にしていることがより明確となる。
《真実》(230mm×200mm×200mm)は、木の板に載せられた五角柱のガラス容器の中に収められた赤い林檎の作品。五角形が五芒星を、林檎は知恵の樹の実を連想させる。容器に封じ込められている点を強調すれば、真実には触れ得ないことを、容器がガラス製であることに着目すれば、真実ではなくその「映像」を見ているに過ぎないことを、表わすようである。

北山翔一
《波箱》(130mm×390mm×170mm)は、表面を波状に削った数枚の板を組み合わせた直方体の形状の木彫作品。最上段の板の表面には、緩やかな弧を描く波が1つだけ表わされている。側面には、重ね合わされた板の作る、様々な組成の鉱物により構成される地層の模式図あるいは露頭のようなイメージを見ることができる。1つの角からは流体のような形がはみ出しているのも目を引くが、何より、狭い側面の一方に空けられた穴に、ブロンズ像の人物の座像が背を向けて収められ、反対側の面からはブロンズ像の両足を飛び出しているのが、箱の中に入った人物を切断して見せるマジック・ショーのような趣で興味深い。
木彫作品《Spirit(=彫刻家)Ⅱ》(1700mm×650mm×600mm)には、直立した女性像や、やや前傾した姿勢で右脚を前に踏み出す男性像が、横に比して縦に引き延ばされた比率で表わされている。その二つの像は右奥側と左手前側に香しい樟から掘り出されかけており(その香もまさに掘り出されている過程であることを強調する)、男性像は手前に向かって引き延ばされるかのように身体の側面を底面とする柱のような形状となっている。女性立像と男性歩行像の間を繋ぐのは、台座付きの座像を手にする"Spirit"である。座像の首を握る右手や座像の右膝当たりを摑む左手に対し、"Spirit"のその他の部位は曖昧で、頭部に当たる部分には鼻のような先端部のみがはっきりと表わされている。ごつごつした粗い削りとポリゴンのような鉛筆の線が書き入れられた男女の像に比して、縦に走る木目と滑らかな表面とが"Spirit"の流体性を鮮やかに印象づける。

鈴木友晴
漫符》(400mm×200mm×500mm)は大きなリボンを頭に付けた女性の頭像(樟)。何より目鼻の無い顔の口からエクトプラズム(?)が手前に飛び出しているのが目に入る。題名からマンガ特有の感情表現を表わしたものであることが分かる。リボンの下から逆さまに仰向けに倒れる女性や、首元に両手を頭の後ろに組む裸体の女性が、それぞれ頭像とは大きく異なる比率で小さく覗いているのも、キャラクターの心理描写であろうか。
《夜は濡れている》(1260mm×650mm×830mm)は裸体女性像を中心としつつ、頭部と臀部、腕と足など、身体の部位が複雑に組み合わされている。顔の部分は髪の毛で覆われた空洞となっていて、てるてる坊主が吊り下げられている。空虚のイメージは、未だ魂を得ていないウンディーネへの連想を誘う。ウンディーネやセイレーンなどファム・ファタルはヨーロッパの男性作家たちによって水と絡めて表わされてきたが、本作品の女性は妖精というより妖怪のようで、紫陽花やてるてる坊主の存在とも相俟って、日本の地域性が強められている(なお、《水溜まり》(850mm×620mm×660mm)では、水の中から姿を現すかのようなてるてる坊主が主題として表わされている)。背面にある腕の先には、手の代わりに滴り落ちる水が表わされ、正面右に向かって突き出した掌の上には両手を頭の上で組む女性の立像が見える。身体表現以外には、(装飾花が成すくす玉状の)紫陽花が2箇所(女性の腹部と右肩の辺り)に配される他、手の先や頭頂部のカタツムリ、周囲を這い回るナメクジの姿も見える。