展覧会『緑の道 by nca』を鑑賞しての備忘録
CADAN 有楽町にて、2021年12月21日~2022年1月16日。
台湾出身の3名の作家、張碩尹(映像)、劉致宏(絵画)、羅懿君(立体と絵画)と、台北に滞在経験のある坂本和也(絵画)の、植物を題材とする作品を紹介する企画。
羅懿君の作品について
《Just What Is It That Makes Today's Sugarcane Fields So Different, So Appealing?》(950mm×950mm×450mm)は、バガス(サトウキビ搾汁後の残渣)やタバコなどを混ぜ合わせた素材をロケットかミサイルの形状に成形した立体作品。直立させた円柱の中央と下部にそれぞれ4枚の羽が取り付けられている。黄褐色から褐色を呈する表面に見える繊維が表情をつくる。タイトルは、後述する、リチャード・ハミルトン(Richard Hamilton)の作品を捩ったものである。
《Molasses, Ethanol, Fitness Workshops, Just What Is It That Makes Today's Life So Different, So Appealing? Baggase-Naval Mines》(170mm×170mm×280mm)は、バガス(サトウキビ搾汁後の残渣)やタバコを石膏と混ぜ合わせ、棘の付いた球のように成形した上で竹製の把手を取り付けた、フィットネス用具のケルトベル(ハンドルの付いた鉄球)のような作品。球体に棘が付けられているのは、「機雷(Naval Mines)」のイメージが重ねられているからである。ダンベルと銃弾とのイメージを重ねた《Molasses, Ethanol, Fitness Workshops, Just What Is It That Makes Today's Life So Different, So Appealing? Baggase-Bullets》(440mm×70mm×70mm)も併せて展示されている。造形における二重性は、食料・生活必需品としての砂糖のみならず、燃料・軍需物資としてのバイオエタノールにもなるという、サトウキビの用途を踏まえてのものである。西澤知美による、美容器具と医療器具とを組み合わせたスタイリッシュな立体作品が思い起こされるが、それらはガラスや金属を素材にしているために鋭利さや冷たさが印象づけられる。それに対し羅懿君の作品は、バガスや竹といった自然素材で制作されているために、柔和さや温かみが持ち味である。なお、作品の長いタイトルは、リチャード・ハミルトン(Richard Hamilton)がアメリカの雑誌・広告に現れたイメージをコラージュした《一体何が今日の家庭をこれほどに変え、魅力あるものにしているのか(Just what is it that makes today's homes so different, so appealing?)》からの引用である。引用した理由の1つは、同作の主要モティーフであるボディビルダーがキャンディを手にしている姿であろう。ボディビルダーがフィットネスを、キャンディが砂糖(≒サトウキビ)を表わすことは明白であるからだ。のみならず、作家は、リチャード・ハミルトンの作品が持つ、アメリカ発の大衆文化に対する功罪相半ばする評価を踏まえ、自作に籠めた二律背反のイメージを強調しようとしているのだろう。
ドローイング作品《Body Movement from Farming to Workout》は、柴刈りや伐採
サトウキビ農園での作業をする人物と、フィットネス・クラブで様々な運動をする人物とを並列し、両者の動作の類似性が示される(連続して撮影し、アニメーション化した作品も併せて展示されている)。この作品においても物事の両面性(多面性)が主題となっている。