映画『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のアメリカ映画。
149分。
監督は、ジョン・ワッツ(Jon Watts)。
原作は、スタン・リー(Stan Lee)とスティーブ・ディッコ(Steve Ditko)。
脚本は、クリス・マッケンナ(Chris McKenna)とエリック・ソマーズ(Erik Sommers)。
撮影は、マウロ・フィオーレ(Mauro Fiore)。
美術は、ダーレン・ギルフォード(Darren Gilford)。
衣装は、サーニャ・ミルコビック・ヘイズ(Sanja Milkovic Hays)。
音楽は、マイケル・ジアッキノ(Michael Giacchino)。
編集は、リー・フォルソム・ボイド(Leigh Folsom Boyd)とジェフリー・フォード(Jeffrey Ford)。
原題は、"Spider-Man: No Way Home"。
街頭ヴィジョンにニュース番組が映し出される。先週のロンドン襲撃事件の衝撃の新事実をお伝えしよう。J・ジョナ・ジェイムソン(J.K. Simmons)は興奮気味だ。この映像は匿名の情報提供者による、ミステリオことクエンティン・ベック(Jake Gyllenhaal) の死の直前を捉えたものである。不快感を催す方もおられようから閲覧に当たってはご注意願いたい。タワーブリッジでカメラに向かって話すミステリオの姿が映し出される。無事に脱出することは叶わなそうだ。スパイダーマンの襲撃に遭った。彼はスターク社の戦闘用ドローンを持っている。自分以外に新しいアイアンマンに慣れる者はいないと言っている。本当にドローンによる攻撃を始めていいのか? 深刻な被害が見込まれるぞ。やれ。やってしまえ。この衝撃的な映像は、物議を醸すインターネット・ニュース「デイリー・ビューグル」で本日早くに公開された。地球を守るために命を賭けた、間違いなく永遠のヒーローとして歴史に名を刻むミステリオを、スパイダーマンが残酷にも殺害した決定的証拠となっている。それだけではない。驚天動地の事実をお知らせしよう。覚悟はいいですか? スパイダーマンの正体は、ピーター・パーカー。ピーター・パーカーという17歳の高校生が罪を犯し…。
スパイダーマンのスーツを着てビルの上にいたピーター・パーカー(Tom Holland)は、街頭ヴィジョンのニュースでスパイダーマンが自らであることを暴露されたことに衝撃を受ける。街頭ビジョンを見る群衆の中にいたミシェル・ジョーンズ(Zendaya)は、周囲の人に気付かれ、スパイダーマンの恋人かと質問攻めに遭う。ピーターは慌ててMJのもとに飛び、彼女を群衆の中から救い出す。どこに行こう? 分からない。君の家は? 無理。父さんがあなたを殺しちゃう。何で? 君の父さんは僕のこと気に入ってるって言ってたよね。ええ、でももう違うわ。行かないと。早く。でもぶら下がるの嫌って言ってなかったっけ? いいからぶら下がらせて。ピーターはMJに抱きつかせると蜘蛛糸を発射して空中ブランコの要領で街中を素早く飛んでいく。途中、マンホールから地下鉄のトンネルを通り抜けることで、2人は人目を避けてピーターの部屋へ辿り着くことができた。
ピーターの親代わりの叔母メイ・パーカー(Marisa Tomei)がハッピー・ホーガン(Jon Favreau)と別れ話をして、ハッピーがメイの家を出ようとしていたところ、物音に気が付いたハッピーがピーターの部屋に確認に向かった。そこには服を脱いだピーターとともに隣にMJの姿もあった。メイは動揺して避妊だけはするように伝えて立ち去ろうとするので、2人が慌てて否定する。MJとメイは初対面の挨拶を交わす。ピーターはメイとハッピーが別れたことを知る。お似合いだと思ってたんだけどな。ピーターはメイとハッピーに状況を知らせたい。ヘリコプターの騒音やスパイダーマンに対する罵声が聞こえてきていた。ピーターは必死にブラインドを下ろして外から室内が見えないようにする。テレビは、スパイダーマンについて報じていた。世界中の政府がスパイダーマンとして知られる殺人犯、ピーター・パーカー、蜘蛛の巣頭の戦争犯罪人について調査を開始しました。彼は数年に渡りニューヨークの善良な市民を恐怖に陥れてきました。ロンドンで発生した大規模な襲撃事件の新たな詳細が判明、合同調査本部が発表したところによりますと、ロンドン襲撃事件の破壊工作用ドローンはスターク社のもので…。そこに連邦政府の捜査官がやって来た。損害管理局だ。ピーター・パーカーの逮捕状がある。メイが対応する。修正4条はご存じ? 当然だ。不合理な捜索じゃない? 捜査官は部屋になだれ込む。
損害管理局に連行されたピーターがクリアリー捜査官(Arian Moayed)から取調べを受けている。クエンティン・ベックを殺してなんかない。ドローンがやったんだ。ドローンは君の所有じゃないか。違う。ニック・フューリーがずっといたから、聞いてよ。全部説明してくれるはず。ニック・フューリー昨年来不在だ。何だって? 部屋の外をメイとMJが連行されるのが見えた。彼女たちは全く関係ないんです! 2人は弁護士を付けるから何も言わないでとピーターに言いながら捜査官に連れられていった。MJはクリアリー捜査官に弁護士を付けてとか、遣り口や自分の権利について理解していると言い放つ。資料から将来有望な女性だと分かってるよ。どうして危険を冒してピーター・パーカーのような「自警団」に関わるんだ? ピーターの親友ネッド・リーズ(Jacob Batalon)もまた取調べを受けた。僕は何も教えないよ。いや、いいんだネッド君。何も言う必要はない。1つだけ教えて欲しい。MJが君にピーターの正体を伝えたのは何時のことだったかな? 何だって! MJが知る前から僕は知ってたさ。スパイダーマンの「Q」だからね。ヴァルチャーの捜索だとかスーツのハッキングだとか、手助けしてきたんだ。そうかね、君はスパイダーマンの違法な自警行為の共犯者ということだね。…あの、今の発言は全て記録から抹消して頂けないですかね。メイは明確な告発がない限りは留置できないと捜査官に訴えた。あなたは絶対に弁護士を雇うべきだ。何ですって? 未成年者を危険に曝すことは犯罪に該当しますよ。少年はあなたに委ねられていたわけですから、彼の法律上の監護者、とりわけ親権者としてね。あなたは彼を危険に曝すどころか、実際彼にそう促した。誰もそんなことしません! ピーターにすぐ会わせて!
ミステリオことクエンティン・ベック(Jake Gyllenhaal) は自らが画策したエレメンタルによるロンドン襲撃事件の最中に命を落とす。ベックは死の間際に撮影した映像をインターネット・ニュース「デイリー・ビューグル」の司会者J・ジョナ・ジェイムソン(J.K. Simmons)に託した。ジェイムソンは、ミステリオがスパイダーマンによって殺害され、なおかつスパイダーマンの正体が17歳のピーター・パーカー(Tom Holland)であることを大々的に報じた。ピーター・パーカー(Tom Holland)と恋人のミシェル・ジョーンズ(Zendaya)は四六時中、人々の好奇の目に曝されることになった。なおかつ、2人は、相棒のネッド・リーズ(Jacob Batalon)、さらにピーターの親権者である叔母メイ・パーカー(Marisa Tomei)とともに損害管理局でクリアリー捜査官(Arian Moayed)から取り調べを受ける羽目に陥った。幸い、辣腕の弁護士マット・マードック(Charlie Cox)の活躍で嫌疑は晴れたものの、事件をめぐる報道により、ピーター、MJ、ネッドの大学入学願書は受け付けられなかった。自らだけでなく恋人や親友の前途を断たれたピーターは、ストレンジ博士(Benedict Cumberbatch)の魔法の力に一縷の望みをつなぐ。
スーパー・ヒーローの正体が暴露されてしまうという、一般的なスーパー・ヒーローの物語のお約束を逆手にとって物語は展開し、なおかつ納得のいく(なおかつ後を引く)結末を迎えさせる。
前作から続くフェイク・ニュースの問題に加え、リトル・ブラザーズによる監視社会の問題が描かれる。さらに平行世界からの「訪問者」(平行世界に強制送還すれば死が待っている)を描くことで、さらっと難民問題をエンターテイメントに組み込んでしまう。
Tom Holland主演、Jon Watts監督のスパイダーマンは、『スパイダーマン: ホームカミング(Spider-Man: Homecoming)』(2017)のニューヨークから、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム(Spider-Man: Far From Home)』(2019)において地元を離れてヨーロッパに向かった。本作では再びニューヨークを舞台としながら副題に"No Way Home"とある通り、スパイダーマンことピーター・パーカーは、自らを迎え入れてくれた本拠地を失う。それは自らを受け容れてくれた叔母メイ・パーカーを失うことでもある。ピーターは一度起きてしまった事実を消去しようと必死になる。だが、それは決して元に戻る道ではない。彼は過去と訣別して前を向くしかない。