可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 山口由葉個展『四角い宇宙』

展覧会『山口由葉個展「四角い宇宙」』を鑑賞しての備忘録
TAKU SOMETANI GALLERYにて、2021年12月11日~2022年1月16日。

山口由葉の絵画展。壁面に1点ずつ4点を展示。

《一色の海と映る私》(333mm×333mm)は、画面全体に青色の横方向の描線が刷かれている。上から5分の1程度の位置の左右には島影が緑色をわずかなストロークで描き入れられ、それより上の部分は白い絵具がやはり横方向に重ねられることで空が表わされている。島影の下の辺りと一番手前(画面の最下段)には緑の横線が配されることで、画面中央の海の青さが引き立つ。作品を特徴づけるのは、画面中央に白い描線で簡潔に表わされた顔である。髪、眉、目、眼鏡(フレーム)、鼻、口、顎などが擦れた線で描かれることで、ガラス越しに見た海が表現されている。顔の左右に2本ずつ入る白い横線は車内の照明であろうか、海や空の広がりを示す横方向の描線と相俟って、流れる景色であることを伝えるのに一役買っている。なおかつ、横への動きは、眼球(目)、レンズ(眼鏡)、窓ガラス(おそらく車窓)、水面(海)と連なる手前から奥へと向かう動きを速度の力で捩じ伏せるように平板化させ、束の間の映像であることを強調している。

《高速道路の下》は、横長の画面(1000mm×1900mm)の左側、ほぼ3分の2を占める部分に、一般道から高速道路に入っていくランプを描いている。高速道路に入ろうとする自動車は真後ろから捉えられ、赤いテール・ランプと、黄色い照明のつくる青い影に加え、暗い灰色のボディは細い横方向の描線を緻密に並べることで同色ながら太い横線を並べる路面と区別されている。車を際立たせている。道路の左側を遮蔽する壁は、照明の黄色と影の黒で厚めに塗られ、防音壁のイメージを生む。壁際の路上に配された朱は、姿は見えないものの前方を走る車のテール・ランプが映っているのかもしれない。画面の一番手前側の紺色の斜線が雨のように配されているからだ。画面の右上には、反対車線と思われる、自動車が右手前に向かって高速道路を降りる様子が描かれている。ボディとタイヤの輪郭線だけで表わされた車、路面の灰色の横線、照明のような黄色の縦線、植栽の緑の短い描線の連なりなどが簡潔に表わされ、描画面積と相俟って、中心のモティーフである進入との距離感が強調される。フィンセント・ファン・ゴッホ(Vincent van Gogh)が模写したこと(《Die Brücke im Regen (nach Hiroshige)》)でも知られる、歌川広重の《名所江戸百景 大はしあたけの夕立》と対比させると、ランプと橋、高速を乗り降りする自動車と橋を行き交う人、入口(近景)・出口(遠景)と橋(近景)・樹影(遠景)といったモティーフの連関が、雨の斜線とで結び合わされる。両者ともに、日常の喧噪や慌ただしさが驟雨のような儚い一瞬の出来事であることを伝える、スナップショットなのだ。