可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ライフ・ウィズ・ミュージック』

映画『ライフ・ウィズ・ミュージック』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のアメリカ映画。
107分。
監督・原案は、シーア(Sia)。
脚本は、シーア(Sia)とダラス・クレイトン(Dallas Clayton)。
撮影は、セバスティアン・ウィンテロ(Sebastian Winterø)。
美術は、トレイシー・ディッシュマン(Tracy Dishman)。
衣装は、クリスティーン・ワダ(Christine Wada)。
編集は、マット・チェシー(Matt Chessé)、カーティス・クレイトン(Curtiss Clayton)、デイナ・コンドン(Dana Congdon)。
音楽は、クレイグ・デレオン(Craig DeLeon)、シーア(Sia)、ラビリンス(Labrinth)。
振付は、ライアン・ハフィントン(Ryan Heffington)。
原題は、"Music"。

 

ミュージック(Maddie Ziegler)がいつものように目を覚ます。ヘッドフォンを装着してダイニングキッチンに向かうと、祖母のミリー(Mary Kay Place)に卵を作ってとお願いする。ミュージックの丸い皿にフライパンから2個の目玉焼きが移されて、ケチャップで円弧が添えられると、微笑む顔が現れた。ミリーは髪を編みましょうとミュージックの後ろに回る。右の三つ編みには青いヘアゴムと決まっている。カバの汗が赤いって知ってたかい? 猫はお互いに不満を言わない。人間だけさ。何でだが知りたくないかね? 私は知らない。私が作った話かもね。
準備万端整うと、ミュージックは日課の散歩に向かう。アパートの出口ではイボー(Leslie Odom Jr.)が扉を空けて待ってくれている。幼いお友達、こんにちは。ニュース・スタンドを通りかかるとナサー(Braeden Marcott)が雑誌から切り抜いた犬の写真を渡してくれる。新しい『ナショナル・ジオグラフィック』。グレートデンゴールデンレトリバーだよ。お祖母さんによろしくな。クリーニング店の息子フェリックス(Beto Calvillo)が先回りしてエイボゥ(Blair Williamson)に代金を渡し、後から来たミュージックはカットしたスイカを手に入れる。図書館に向かったミュージックは百科事典にドッグイアしてある犬の項目を眺めると、帰途につく。
台所にいるミリーがアイスキャンディのスティックに書かれた文を読む。1から10のうち二音節の数字は7のみです。その通りね。面白いわ。ミリーは間もなくして口を歪めて卒倒する。
よう、ミュージック。アパートの入口では大家のジョージ(Hector Elizondo)が扉の修繕をしていた。すぐにクーラーを直しに行くとミュージックに伝える。
ミュージックが部屋に戻る。テーブルに座ると、ミリーが仰向けに倒れているのを目にする。どうしていいか分からないミュージックは動顚する。そこへジョージがやって来る。ミュージックの様子がおかしい。ジョージは、ミリーが倒れているのに気がつく。問題ない。ただ寝てるだけだよ。ジョージはミュージックを宥めながらミリーに近付く。すぐに電話を手にして通報する。隣人が床に卒倒しました。彼女は息をしていません。脈がない。
駆け付けた警官(Eric Davis)がジョージに尋ねる。連絡のとれる家族はいますか?
ホールの片隅でだらしなく眠り込むズー(Kate Hudson)をAAのスタッフ(Sarah Zinsser)が起こす。例会は終わりましたよ。ああ、転た寝しちゃったね。みんなただしゃべってて、気付いたら夢ん中。美しい楽園だよ。ここからずっと遠く。さあ、行きましょう。ちょっと待った。最後に裁判官からの書類にサインして。電話だ。ジョージ? 何? 祖母さんが亡くなった。

 

自閉スペクトラム症のミュージック(Maddie Ziegler)は祖母のミリー(Mary Kay Place)とともに毎日を規則的に過ごしている。アパートの大家のジョージ(Hector Elizondo)、隣室のイボー(Leslie Odom Jr.)、クリーニング店の息子フェリックス(Beto Calvillo)など近隣の人々もミュージックを見守り、陰に日向に手助けしてくれていた。ところがある日、ミリーが突然卒倒し、帰らぬ人となってしまう。ミュージックの歳の離れた姉ズー(Kate Hudson)が急遽呼び出される。彼女は保護観察中のドラッグの売人で、ミリーとは疎遠だった。ズーは元締のタナー(Brandon Soo Hoo)への前借りの返済を目論んで、金目の物を探しにミリーの住まいを訪れる。

ミュージックの頭の中に展開するミュージック・ヴィデオのような世界が、劇中劇として挿入される。音楽、舞踊、衣装、美術で構築された、鮮やかで賑やかで目まぐるしく展開する世界に否応なしに巻き込まれ、ミュージックと一体となって喜んだり悲しんだり没入する体験は至福。とりわけダンスは、蓮の花が次々と咲くように、何かがポンポンと開いていく感覚を味わえる。
ミュージックの過ごす規則的な毎日は、掛け替えのない幸福であることが冒頭で示される。リピートするミュージック。その幸福に気がついたズーはミュージックとの生活をスタートさせることになる。ズーがはるか彼方にあると信じた楽園は、実はごく身近にあったのだ。
ミュージックを支える人たちが素晴らしい。とりわけフェリックスは光だけの世界へと消えても、ミュージックを見守り続ける。最後の最後に彼の遣わした犬が飛び出してくるなんて!