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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 荒木悠個展『双殻綱:第二幕』

展覧会 荒木悠個展『双殻綱:第二幕』を鑑賞しての備忘録
無人島プロダクションにて、2022年1月29日~2月27日。

双殻綱(二枚貝類)の牡蠣と帆立貝をモティーフとした映像作品《双殻綱:第二幕》を中心とした、荒木悠の個展。

《双殻綱:第二幕》のスクリーンは角度を付けて「∧」状に並べられ、2つの画面の接合部中央には朱肉のように赤で○に貝の字が割印のように付けられている。海底で帆立貝にインタヴューを敢行した模様などから構成される右画面の映像と、オペラ作品『エウリディーチェ(L'Euridice)』をモティーフとした左画面の映像とは、帆立貝と牡蠣とによって共通性があるものの、再生時間が異なるため、場面の組み合わせが代わりながら映し出される。

左画面の映像には、カラオケ・ボックスで歌う牡蠣が登場する。カラオケが、楽団(=オーケストラ)の不在(=空)に由来することを踏まえれば、中身のない(=空の)貝殻であり、そこに歌唱パートが挿入されることで、貝殻は中身を伴った貝となる。
オペラ作品『エウリディーチェ』において、夫のオルフェオは、地獄へ降り、亡くなった妻のエウリディーチェを取り戻す。対になる貝殻を探し当てる遊戯「貝合わせ(貝覆い)」が夫婦和合の象徴として嫁入り道具となったことを踏まえれば、オルフェオとエウリディーチェとは対の貝殻と言える。それならば、貝を求めて海底へ潜る者はエウリディーチェを求めるオルフェオであり、延いては潜水者もまた貝となる。
ソフト・スカルプチャーの牡蠣や、泰西名画に表わされた牡蠣に歌わせることは、牡蠣の声を聴く企てである。同様に、海底での帆立貝のインタヴューは、貝という声なき者の声を聴き取ろうとする試みであり、そこに芸術が担う重要な役割の1つがある。そして、女性に対するインタヴュー。質問に対する口を閉ざす女性は、アンデルセンの人魚姫よろしく、人間の姿に変貌を遂げるために声を失ったのであろうか。女性もまた貝である。
感染症の蔓延防止のために家に籠もる人。皆、貝である。

テーブル上の円形の鏡に置かれた左手の白い塑像は、鏡像とともに貝殻となり、そこから半透明の身を飛び立たせている(あるいは捕まえようとしている)。貝は女性(「女性自身」)であり、あるいは1対の殻は男女である。いずれにせよ、貝の身は子のイメージを産む。映像に登場するソフト・スカルプチャーの牡蠣は、パペットのように操作されて、歌う(仕草をする)とともに、おくるみのようにも扱われもする。
彫刻を意味する"sculpture"には、貝殻の表面の模様をも意味するという。

巨大なホタテ貝の作り物を前にした2人の着物姿の女性を捉えた古写真の、女性の顔の部分が空けられていて、顔出しパネルにした作品が入口近くに設置されている。パネルが殻である一方、穿たれた穴は空であり、1組を生み出す装置となっている。