可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『GAGARINE ガガーリン』

映画『GAGARINE ガガーリン』を鑑賞しての備忘録
2020年製作のフランス映画。
95分。
監督は、ファニー・リアタール(Fanny Liatard)とジェレミー・トルイユ(Jérémy Trouilh)。
脚本は、ファニー・リヤタール(Fanny Liatard)、ジェレミー・トルイユ(Jérémy Trouilh)、バンジャマン・シャルビ(Benjamin Charbit)。
撮影は、ビクトル・スギャン(Victor Seguin)。
美術は、マリオン・ブルゲル(Marion Burger)。
衣装は、アリアヌ・ドーラ(Ariane Daurat)とヴィルジニ・モンテル(Virginie Montel)。
編集は、ダニエル・ダルモン(Daniel Darmon)。
音楽は、エフゲニー・ガルペリヌ(Evgueni Galperine)、サーシャ・ガルペリヌ(Sacha Galperine)、アミヌ・ブアファ(Amine Bouhafa)。
原題は、"Gagarine"。

 

1963年。フランス。パリ南郊のイヴリ=シュル=セヌに建設されたガガーリン団地を、その名の由来となったソビエトの宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンが、その完成を祝して来訪した。大勢の人々がユーリの名を叫び、紙吹雪が舞う。記者が少年にマイクを向ける。宇宙に行ってみたい? 無理かな。何で? 沢山のことを知らきゃ。学べるよ。うん。
2018年。ガガーリン団地A塔8階の1室。天井にはテニスボールを中心とした太陽系を模したモビールが吊されている。壁には宇宙ステーションや惑星の写真、電気回路図などが貼られている。16歳のユーリ(Alséni Bathily)がベッドで目を覚ます。ユーリは電気回路図にハロゲンライトを書き足す。冷蔵庫を開けても食べるものがない。ユーリは窓際に置いた望遠鏡を覗き、周囲を眺める。車のボンネットを開けて工具を手にしたディアナ(Lyna Khoudri)の姿が目に入る。
ユーリが同じ団地に住むウサム(Jamil McCraven)とエレベーターを待っている。ウサムはユーリがディアナに好意を持っているのを知っていて、彼と引き合わせようと提案する。ユーリは気恥ずかしいのかウサムにつれない態度をとる。2人は動かないエレベーターを諦めて、建物の外へ。少年たちが屯してボクシングの話題などで盛り上がっている。ユーリはウマル(Rayane Hajmessaoud)に近付く。30ユーロの貸しがあるだろ? マジで? みんなのため必要なんだよ。何で? この建物を直すんだ。30ユーロで? まずは始めないと。あの金で靴買ったんだ。「ガガーリン」を残さなきゃ。「ガガーリン」がずっとあるわけないだろ。僕は立ち退かない。ユーリ、もう手遅れだって。何とかしなきゃ。マジか? そうだよ。
ユーリが1人部屋で電話する。母(Meta Mutela)は電話に出ない。母さん、いつ戻ってくる?
ユーリは1人、エレベーターのピットで作業している。ウサムから電話が入る。まだそこにいる? ブラック・ホールに呑み込まれてる。ウサムがディアナを伴ってエレベーターの修理をしているユーリのもとへやって来た。ユーリが2人に説明する。まずはエレベーター、それから配線に手を付ける。安全ならここを解体できないだろ。ディアナがいい道具を手に入れるってさ。そんなこと言ってないでしょ。言ったよ。見せて。エレベーターを直すなら制御盤をどうにかしなきゃ。分かってるよ。じゃあ、やんなよ。いや、君の助けが必要なんだ。困ってたんだ。

 

パリ南郊のイヴリ=シュル=セヌにあるガガーリン団地は、老朽化が進んで次々と住人が抜け、廃墟となった部屋も多い。同団地で1人暮らしをする16歳のユーリ(Alséni Bathily)は、団地の解体を阻止しようと、同じ団地の幼馴染みのウサム(Jamil McCraven)と、キャンプで暮らすロマのディアナ(Lyna Khoudri)の助けを借りて、エレベーターと電灯の修繕に取り組む。しかし、ガガーリン団地の安全性を評価するために派遣された専門家(Fanny Liatard)は、建物の著しい老朽化を認定し、半年以内の住人の退去と建物の解体撤去とを当局に報告した。

以下、全篇に触れる。
16歳のユーリ(Alséni Bathily)は、ガガーリン団地で一人暮らしをしている。彼の団地との一体感は、彼の名が、団地の名の由来となったソビエトの宇宙飛行士ユーリ・ガガーリンから取られていることに示されている。ユーリにとって、ガガーリン団地は、愛人のもとへ去ってしまった母親(Meta Mutela)との唯一の繋がりであり、離れがたい場所である。それゆえ、ユーリは、地球(「母」なる大地)から切り離された宇宙船(地球の環境をできる限り模倣した装置)の乗組員よろしく、ガガーリン団地の住人としてサヴァイヴするために孤軍奮闘する。ガガーリン団地の爆破解体は、宇宙船の解体であると同時に、ユーリが母胎(母親の呪縛)から抜け出し、新たな生を始めるビッグ・バンともなる。それは、地球(=母)から月=ディアナ(Lyna Khoudri)への移住であるかもしれない(月によって太陽が覆われる金環日蝕はその予兆であろう)。
ディアナは、蛸のような異星人が存在し、彼らは全てを破壊すると言う。なぜなら、同じ言語を話さないとき、人々は互いに相手に対して攻撃的になるからだ。実際、ロマのキャンプは、彼らの言い分に一切耳を貸すことなく、当局によって破壊されることになる。
重力のない宇宙空間で浮遊・移動するようなカメラワークにより、ガガーリン団地とその背景とを幾何学的に切り出して見せる。その撮影手法は、ユーリを宇宙飛行士に仕立てることにもなる。
"Ya Tara"という曲が染みる。
本作が好みなら、宇宙と古いアパルトマンとを結び付けたフランス映画『アスファルト(Asphalte)』(2015)をお薦めしたい。