可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ガンパウダー・ミルクシェイク』

映画『ガンパウダー・ミルクシェイク』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のフランス・ドイツ・アメリカ合作映画。
114分。
監督は、ナボット・パプシャド(Navot Papushado)。
脚本は、ナボット・パプシャド(Navot Papushado)とエフード・ラフスキ(Ehud Lavski)。
撮影は、マイケル・セレシン(Michael Seresin)。
美術は、デビッド・ショイネマン(David Scheunemann)。
衣装は、ルイーズ・フログリー(Louise Frogley)。
編集は、ニコラス・デ・トス(Nicolas De Toth)。
音楽は、フランク・イルフマン(Frank Ilfman)。
原題は、"Gunpowder Milkshake"。

 

「会社」と呼ばれる、男性で構成される集団が存在する。今までずっと物事を差配してきてた。面倒を処理するのに人が必要となると、私が送り込まれる。
ホテルの1室。サム(Karen Gillan)が標的を処分し終える。退去しようとドアを開けると、そこには武器を手にした大勢の男たちが待ち構えていた。
連中を片付けて帰宅したサムは、冷蔵庫を開けてヴァニラのアイスクリームを取り出し、ヴァニラ・シェイクにして飲む。腕の切り傷を縫い合わせていると、電話が鳴る。サム。ネイサン。どこにいる? 自宅。縫い物をしてるとこ。ダイナーで会おう。なんで? 私、面倒なことになってるの?
サムがダイナーに入ると、ローズ(Joanna Bobin)が出迎える。テーブルに着いたサムに、ローズがミルクセーキを運んでくる。大事なお客さんのためにアイスを追加しておいたわ。ありがとう、ローズ。
15年前。ダイナーの同じ席にサム(Freya Allan)の姿があった。ローズがミルクセーキを運んでくる。大事なお客さんのためにアイスを追加しておいたわ。ありがとう、ローズ。もう来るわよ。ママのこと分かってないのね。スカーレット(Lena Headey)がダイナーにやって来る。「積み荷」を降ろしてもらえます? 今日は何も携帯してないわ、ローズ。スカーレットがサムの向かいに座る。30分で来るって言ったのに。何分か遅れちゃったわね。3時間よ。怪我してるね。つい先日仕事場でね。持ってきた? サムは若草色のハードカバーの『若草物語』をテーブルの上に置く。アナ・メイが選びそうな代物ね。本を開くとそこには銃がしまわれている。装填済みだよ。お利口さんね。いい、しばらく行方を晦ます必要があるの。それなら私も付いてく。今回は無理。ネイサンにすぐに来てもらうわ。私がいない間、彼が面倒を見てくれるわ。ネイサンと行きたくない。あなたのためよ。アナ・メイたちと図書館にいたい。危険すぎるわ。何が起きてるの? 事情は複雑なの。教えてよ、もう子供じゃないんだから。そうね。ミルクセーキ、飲んでないじゃない。ママと飲みたかったんだもん。母娘は1杯のミルクセーキを2本のストローで同時に飲む。どれくらいいないつもり? ちょっと電話しなきゃ。ここにいてね。母が席を離れた後、ダイナーに数人のロシア系マフィアが乗り込んできた。こんばんわ、「積み荷」を降ろしてもらえます? 銃器を預けることなく連中はずかずかとサムの席に向かう。部下を引き連れた男(Ed Birch)が母親のいた席に腰を下ろす。やあ、お嬢ちゃん。ママは知らない人と話しちゃいけないって。そのママとやらはお前さんによく似てるのか? 俺の親父の返り血を浴びてなかったか? あんたのこと好きじゃない。お遊びは十分だよ。ママはどこにいるんだ? 消えてちょうだい。ママはどこか言うんだよ。男はナイフでサムの左頬を切る。サムが『若草物語』を開くと、中の銃は消えていた。戻って来たスカーレットがロシアン・マフィアを瞬く間に始末すると、そのままダイナーを出て車に乗り込む。サムが後を追おうとすると、ダイナーに現れたネイサン(Paul Giamatti)に押し止められる。スカーレットは束の間サムの姿を名残惜しそうに見つめると、車を走らせた。
現在のダイナー。ネイサンが来店する。こんばんわ、お客様、「積み荷」を降ろしてもらえます? 何も無いよ。何も無いの意味が異なるようね。これを忘れてたか。ネイサンは足首に装着していた小銃をローズに預ける。ネイサンがローズの前に座る。お前さん、しでかしたな。最近の娘はシュタージより手に負えん。怪我してるな。つい先日仕事場でね。母親そっくりな口ぶりだ。母親なんていないけど。気性は母親譲りだがな。今晩は一体何なの? マズい状況だ。数人の馬鹿を始末したって言ったな。そうだけど。頼むよ、お前さん。目立たない仕事のはずだろう、血生臭い虐殺じゃなくて。撃たれろって言うわけ? 言われたことだけして欲しいんだ。誰のためにやってるのか忘れるんじゃない。彼らさえ満足なら…。ここに呼んだのって、しかも急によ、そんなお説教を聞かせるためなの? いいや、お前さんの才能が早急に必要なんだ。私らは盗まれたんだ。「会社」から盗みを働くなんて馬鹿は誰? 私らが何者かを分かってない奴だ。会計士だよ。表向きの仕事をしてもらってるから。いくら盗られたの? お前さんを送り込む必要がある額だよ。取り戻さなきゃならん。後ほど住所を送る。それでな、年季が入った銃器は処分するんだ。でもずっと使ってるの。新しい銃器を手に入れるんだ。お前さんに足を付けられる訳にはいかんのだ。

 

サム(Karen Gillan)は、男性のみで構成される組織「会社」の人事担当者ネイサン(Paul Giamatti)の指示を受け、標的を抹殺する仕事を請け負っている。「会社」の金を持ち出した会計士(Samuel Anderson)を消し、金を取り戻す依頼を受けたサムは、足が着かないよう新しい銃器を手に入れるよう求められ、久しぶりに「図書館」に向かう。そこでは書籍を隠れ蓑に重火器の取引が行なわれていた。受付のマデリン(Carla Gugino)に地下室に案内されたサムは、館長のアナ・メイ(Angela Bassett)、図書館員のフリーレンス(Michelle Yeoh)の許可を取り付け、年季の入った銃器と交換に新たな武器を手に入れる。会計士の滞在するホテルに向かったサムは、腹を撃ち抜いた後で、彼が娘(Chloe Coleman)を誘拐されていたために「会社」の金に手を出していたことを知る。ネイサンの反対にも拘わらず、サムは会計士を医師リッキー(Michael Smiley)のもとに搬送したサムは、会計士が金を運ぶ予定だったボウリング場に向かう。会計士を待っていたドラキュラ(Joshua Grothe)、フランケンシュタイン(Hannes Pastor)、ミイラ男(Billy Buff)、狼男(Lee Huang)の4人組は、サムが「金」を手にしていることを知ると、モールのビデオ店に運ぶよう命じる。そこへクロウ(Jack Bandeira)、ショッカー(David Burnell IV)、ヤンキー(Ivan Kaye)の3人組が現れ、サムの行く手を阻む。前回のヤマでサムが余計に殺害した中に、マフィアの首領ジム・マカレスター(Ralph Ineson)の息子がいたため、ネイサンは組織間のいざこざを回避すべく、サムを捕えてジムに引き渡そうとしていた。

男性の支配する社会において一方的に利用される女性、その中で女性が自分の立場を守るために戦うという、男性対女性の闘争という構図が終始一貫している。
格闘の場面は、様々なシーンが用意され、銃器の使用だけでなく、様々なアクロバットが駆使されるなど、様々な工夫が凝らされている。とりわけサムの両腕が麻痺させられて使えない状況での展開は出色。そこには女性が十分に才能を発揮できなくさせられている状況への揶揄も籠められていよう。
図書館が武器商として設定され、ジェーンオースティン『高慢と偏見』、シャーロット・ブロンテジェーン・エア』、ヴァージニア・ウルフ」『自分自身の部屋』など
が「武器」(を潜ませた本)として提供されるが、女性が知性によって男性社会に抗ってきた精神を受け継ぐというメタファー以上のものではないようで、作家や作品との関連性が銃器や戦闘に全く活かされていないのが残念。