可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 久保田智広個展『eat ro ekyu』

展覧会『久保田智広個展「eat ro ekyu」』を鑑賞しての備忘録
EUKARYOTEにて、2022年4月15日~5月1日。

作品や什器などの配置を変えたギャラリー自体を提示する、久保田智広の個展。意味のとれない展覧会タイトルは、ギャラリーの名称"EUKARYOTE"の文字を並び替えたもので、企画内容を示唆するものである。

1階は、通りに面したガラス壁面のある展示室と事務室との間にあった壁面が取り払われて、1つの空間となっている。白い壁面と灰色の床面に黒い天井というモノトーンの空間に、窓やドアや換気口の方形、柱やコードや配管などの線が景色となっている。とりわけ、受付の白い壁面に斜めに穿たれた不等辺四角形のスリットに呼応するように、受付の白い壁の銀色(ステンレス?)の切断部と、その手前の柱とがつくるV字が印象的だ。イヴ・クライン(Yves Klein)の『空虚』展(l’Exposition du vide)の向こうを張るかのようだ。もっとも、広くなった展示空間には、1台の小さな白い冷蔵庫が置かれている。冷蔵庫は保存庫であるとともに、その白い直方体の外見が「ホワイトキューブ」と言えることから、ホワイトキューブの展示室を有する美術館のメタファーであろう。美術館≒ギャラリー自体を展示することを宣言しているのだ。
2階は、ジャッキのようなもので階段側の壁面と僅かな間を開けて可動壁が設置されている。白い壁面で囲まれる展示空間(ホワイトキューブ)を、完全に潰してしまわずに圧縮して見せるのは、作品の展示スペースを脇に追いやったことを強調する狙いがあるのだろう。可動壁の裏側の木枠とベニヤ板の構造が曝され、収蔵庫を映すモニターと、ポートフォリオなどを並べた棚が設置されている。反対側の壁面の近くには2脚の椅子が90度の角度で設置されている。ギャラリーに作品がないことに耐えられない強迫性障害の来廊者に対しては、カウンセリングを行なう用意があると言わんばかりである。だが、作品が展示されていないと嘆く必要はない。この椅子から、壁面に設置された棚、さらにモップや塵取りなど清掃用具が開け放たれた窓に向かって次第に高くなるように設置されている。イヴ・クラインの《空虚への跳躍(Saut dans le vide)》よろしく「空虚からの跳躍(Saut du vide)」である。作家は鑑賞者に空虚からの思考を促している。東京(TYO)で「分かったぞ(Eureka)」と叫べと。