可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 笠井美香個展『風景の風景のうえの風景』

展覧会『笠井美香「風景の風景のうえの風景」』を鑑賞しての備忘録
児玉画廊にて、2022年4月16日~5月28日。

着彩した紙片を重ねた作品と、壁面を写真で埋め尽くした作品から成る、笠井美香の個展。作品はいずれも無題。

展示の柱は、紙製のパッケージ(箱)の裏など雑多な紙にアクリル絵具で着彩したものを数枚から十数枚重ねたシリーズ。パッケージ(箱)の立体から平面に解体され、その「展開図」は、切れ込みによる複雑な凹凸を持っている(一部、箱の状態を維持した作品もある)。ショッピング・バッグの把手が覗いていたり、ルーズリーフが挟まれていたりもする。手近なもので作られたという意味では、ブリコラージュによるコラージュと言える。1枚ごとに1色が配されているが、均一に塗り込めるのではなく、筆跡が明瞭で、中には波のようなイメージを生んでいるものもある。支持体は存在せず、着彩した多様な形の紙の集積が作品として提示されている。パッケージや包装紙はそれ自体がグレーやブラウンの系統の色彩を持つためもあろうが、ヴィヴィッドな色彩はなく、くすみカラー(?)でまとめられている。1つの紙が1回の絵筆のストローク代わりで、その配置により描画され、支持体なき絵画が生まれるが、わずかに覗く色彩(紙)、まくれや折れ、影などの効果は、絵画から衣装へと接近しているようだ。支持体の不在は、衣装を纏うモデルの不在を表わすのかもしれない。着用するものを問わない、誰にでも似合うファッションに対する希求のようなものが作品に感じられる。鑑賞者が作品に近付くのではなく、ブリコラージュによる開かれた作品が鑑賞者に近付いてくるのである。

展示のもう1つの柱は、会場の壁面を写真で埋め尽くした作品である。作家の制作の場、通路や交差点や駐車場、家具や建物、さらに縁起を始めとする物語絵の図版や動画サイトなど、被写体は多様である。制作中の作品、横断歩道(区画線)、絵物語の登場人物などのモティーフ、制作中の作品が置かれた室内、横断歩道のある道路、登場人物の描かれた場面を含めた写真、写真群という3つの階層から成ると考えれば、「風景の風景のうえの風景」となるだろうか。

紙を重ねたシリーズと、壁面を写真で埋め尽くす作品とで共通するのは、異なる景観(位相)を1つの画面=壁面に収めている点である。手持ちの道具・素材(情報)に対してどんな色(評価)を与え、組み合わせるか。選択と編集の結果としての作品は、作家の自画像ないし地図となる。