映画『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のアメリカ映画。
126分。
監督は、サム・ライミ(Sam Raimi)。
脚本は、マイケル・ウォルドロン(Michael Waldron)。
撮影は、ジョン・マシソンJohn Mathieson。
美術は、チャールズ・ウッド(Charles Wood)。
衣装は、グレアム・チャーチヤード(Graham Churchyard)。
編集は、ボブ・ムラウスキー(Bob Murawski)とティア・ノーラン(Tia Nolan)。
音楽は、ダニー・エルフマン(Danny Elfman)。
原題は、"Doctor Strange in the Multiverse of Madness"。
宇宙と宇宙との間をつなぐギャップ・ジャンクション。スティーヴン・ストレンジ(Benedict Cumberbatch)がアメリカ・チャベス(Xochitl Gomez)とともに浮遊する構造物を駆け抜け、悪鬼から必死に逃げている。ようやくヴィシャンティの書を目前にしたところで、悪鬼に追いつかれてしまう。スティーヴンは、アメリカにヴィシャンティの書を手に入れさせようと、魔術を使って球状の結界に悪鬼を封じ込めようとする。だが、悪鬼の力を抑えきることができない。スティーヴンはアメリカから力を奪い始める。何してるの? 君の力を悪鬼に盗られるわけにはいかない。君は力を制御できないが、私なら可能だ。でも友達でしょ! 分かっている。だが、全マルチバース的観点で勘定すると、君の犠牲はやむを得ない。結界を逃れた悪鬼の触手がスティーヴンの胸を貫く。悲鳴を上げたアメリカは思わず星形の入口を創り出す。だが悪鬼に四肢を拘束されたアメリカは身動きがとれない。スティーヴンが残された力を振り絞ってアメリカの拘束を断ち、アメリカを星形の入口へと落とし込むと、スティーヴンもまたそこへと落ち込む。
スティーヴン・ストレンジが目を覚ましベッドで体を起こす。ニューヨークにある彼の邸宅サンクタム・サンクトラムの寝室。スティーヴンは正装して教会へ向かう。
既に参列者でいっぱいの礼拝堂。信徒席のスティーヴンの隣にニコデマス・ウェスト博士(Michael Stuhlbarg)が座った。久しぶり。5年間、塵になっていましたから。多くの者がそうだった。消えていた間に2匹の猫と兄弟とを亡くした。それは申し訳ない。夜寝付けないのは、と考えるのですが…。あれは避けられなかった出来事か? 他に方法は存在したか? そうするしかありませんでした。もちろん、そうだろう。最高の外科医にして最高のスーパーヒーロー。それでも彼女は手に入れることができなかった。礼拝堂にウェディングドレスを纏ったクリスティーン・パーマー(Rachel McAdams)が姿を現わした。
披露宴の会場。クリスティーンがチャーリー(Ako Mitchell)と踊る姿を横目に、スティーヴンはバーカウンターで飲んでいた。クリスティーンが姿を現わし、赤ワインを注文する。スティーヴンが彼女のグラスの中身を魔術で赤ワインに変える。すまない、鼻についたかな? 結婚式はどうだった? 完璧だった。おめでとう。チャーリーはね、紹介しなきゃ、ファンなのよ。クリスティーン、僕は変わるべきだったし、変わりたかった。常に頭にあったんだ、僕たちのことが、でも、犠牲を払わなければならなかった、君を守るために。ごめんなさい、私たちうまくいった試しが無かったわ。何故? あなたは執刀医でなければならなかったし、だから常に尊敬していたし、でもだからこそ愛せなかった。君が幸せで嬉しいよ。幸せよ、実際。あなたは? 幸せだよ。良かった、あなたは幸せでなくちゃ。
何かが衝突する激しい音が響いてくる。披露宴に集まった人々が続々と窓辺に集まる。通りでは自動車が空中に浮き上がり、落下して道路や他の自動車などと衝突していた。スティーヴンは浮遊マントを利用して建物から飛び出し、現場に急行する。スティーブンは魔術を用いて一つ目のタコようなモンスター・ガルガントスを可視化させる。襲われた人々を守りつつ、モンスターに攻撃を仕掛ける中、ガルガントスの標的となっているのが一人の少女であることに気が付く。彼女は夢に出てきたアメリカ・チャベスだった。ウォン(Benedict Wong)が合流し、何とかガルガントスを倒してアメリカを救う。あのモンスターは君に何を求めていた? 両親は何処にいる? スティーヴンの質問に答えずアメリカは走り去る。彼女を連れ戻してくれ、私の指輪を持ち去った。
スティーヴンとウォンはアメリカの先回りをして捕まえ、カフェに連れて行って食事をとらせる。君の命を救うために必死だったのは分かっているな? 巨大なモンスターなら対処できる。しかし私を悩ませるのは、昨晩の夢に君が現れたことだ。夢じゃない。別の世界だよ。マルチバースの経験ってどれくらいあるわけ? 経験ならあるさ。ごく最近もスパイダーマンとの件でね。何との件? スパイダーマンとの。彼は蜘蛛の力を持っている。キモいね。蜘蛛なの? いいや、もっと人間らしい。壁に攀じ登ったり糸を吐いたりとか? その通り。お尻から? いや、多分、正直、そうでないことを願うがね。すごくキモい。君は食べ物でお腹を壊すんじゃないか。私は別の世界から来たの。お腹があんたたちのと同じだってどうやったら分かるの? 分からない。君が他の世界から来たかどうかさえ分からない。そのゆえに私はじっとここに座り、君が私たちの蒙を啓いてくれるのを待っている。Francamente, de los dos Doctor Stranges que he conocido, no eres mi favorito.(ぶっちゃけ、私が会った2人のストレンジ博士のうち、あんたはお気に入りの方じゃないよ。) どういう意味だ? ¿Él no puede hablar español?(彼、スペイン語分からないの?) Ni siquiera sé si habla su propio idioma.(彼が自分自身の言語を話しているかどうかさえ知らないよ。) いいかね、私は素敵な結婚式を後にしてタコに食べられそうになっている利巧な子を救ったのだ。誰の結婚式? クリスティーン。行ったの? クリスティーンと結婚したの? 気にしてる? ああ。いや、しなかった。何が起きているのか説明する必要がある。なぜあのタコは君を食べようとしていたのか。あれは私を連れ去ろうとしてたの。悪魔のために働く手下みたいな。分かってるのはヤツらが自分たちのために私の力を欲しがったってことだけね。何の力だ? マルチバースを移動できる。何だって? 宇宙間を物理的に移動できるのか? どうやって? それが問題なのよね。どうやったらいいか分からない。コントロールできないの。本当に本当に怖くなったときだけ移動できる。そうか。別の私はこのモンスターを倒す方法を知っていたかな? 魔法の書だけは知ってた、魔術師に敵を倒すのに必要な方法を授けるっていう。ヴィシャンティの書? それは実在しない。お伽噺だ。実際に、存在する。ウォンが口を挟む。至高の魔術師になるときに手に入る秘密の書に記してあった。信じられない。至高の魔術師ではないのか? 至高の魔術師ではないのだ。別のあんたは彼の世界の至高の魔術師だったけどね。存在はするものの、ヴィシャンティの書には辿り着くことができないと言われている。そうだけど、例外が、私らは到達したよ。悪魔に追いつかれちゃったけど。守ってくれると思ったのに、あなたは私を守ってくれなかった。それは夢の中の話だ。夢じゃないの。証明したまえ。
「マスターズ・オブ・ミスティック・アーツ」所属の魔術師スティーヴン・ストレンジ(Benedict Cumberbatch)は、かつて神経外科医として勤務したメトロ総合病院の同僚で恋人でもあったクリスティーン・パーマー博士(Rachel McAdams)の結婚式に参列した。近傍で不可視の存在が暴れ回ったたため、スティーヴンは披露宴を抜け出し制圧に向かう。スティーヴンにより可視化されたガルガントスの狙いは、アメリカ・チャベス(Xochitl Gomez)。スティーヴンの眠りを妨げる悪夢に登場する少女だった。駆け付けたウォン(Benedict Wong)の助太刀で辛うじてガルガントスを撃退したスティーヴンは、逃げ出すアメリカを捕まえて事情を説明させる。彼女はマルチバースの宇宙間を物理的に移動する能力の持ち主で、その能力のために狙われているとか、スティーヴンの見た悪夢はマルチバースにおける別のスティーヴンを映し出しているとか。アメリカに案内されスティーヴンと瓜二つの死体が転がっているのを見せられたスティーヴンは彼女の説明に納得せざるを得ない。ガルガントスと、「夢」に登場し「スティーヴン」を殺害したモンスターとのルーン文字から魔女の妖術が用いられていると踏んだスティーブンは、魔女であるワンダ・マキシモフ(Elizabeth Olsen)の農園を訪ねる。スティーヴンは、ワンダがアメリカの能力を手に入れ、子どもと暮らす「ワンダ」の生きる宇宙に移動しようと企んでいることを知る。
別の選択をしていたら人生はどうなっていただろうか。そのような夢見た世界が幾多の併行する宇宙の中に存在し、そこへの移動手段があったら。「スカーレット・ウィッチ」として知られるワンダ・マキシモフが、「夢に見た」2人の子どもと暮らす世界を目指そうと、アメリカ・チャベスが持つ、マルチバースの宇宙間を物理的に移動する能力を手に入れようとする。
冒頭で、スティーヴン・ストレンジのクリスティーン・パーマーに対する失恋を描き、スティーヴンの悔悟を通じて、鑑賞者に自らの人生での別の選択を喚起させる仕掛け。2人の子どもと仲睦まじく暮らす夢(別の宇宙では現実である!)を見るワンダ・マキシモフが、広い農園で1人過ごす様が追い打ちをかける。
テンポ良く展開する物語には、スティーヴンやウォンの魔術、スカーレット・ウィッチの妖術を始め、様々なキャラクターたちがあらゆる能力を駆使して戦う見せ場が鏤められている。ワンダ・マキシモフが水や鏡など「映像」を通じて室内に侵入を試みるシーンであるとか、「死体」を動かすなど、時折挿入されるホラー映画的描写も楽しい。否応なくエンディングにまで鑑賞を引っ張る力がある。
宇宙間を物理的に移動する能力を持つ少女がヒスパニックであるのは、アメリカとメキシコの間の壁に対する見解を反映しているのだろう。