映画『フォーエバー・パージ』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のアメリカ映画。
103分。
監督は、エベラルド・ゴウト。
脚本は、ジェームズ・デモナコ。
撮影は、ルイス・サンサンス(Luis Sansans)。
美術は、ジェニファー・スペンス(Jennifer Spence)。
衣装は、リア・バトラー(Leah Butler)。
編集は、トッド・E・ミラー(Todd E. Miller)、ヴァンサン・タベロン(Vincent Tabaillon)、ティム・アルヴァーソン(Tim Alverson)。
音楽は、ニュートン・ブラザーズ(The Newton Brothers)。
原題は、"The Forever Purge"。
アデラ(Ana de la Reguera)とフアン(Tenoch Huerta)がメキシコの荒寥とした原野を徒歩で横断している。目指していた1件の小屋に入ると、数人の男たちがテーブルを囲んでいた。フアンがその1人に紙袋を差し出すと、男たちが中身を確認し、リーダー格の男が無言で許可を出す。床板が外され地下への入り口が開かれる。アデラとフアンが降り、先に到着していた人たちと合流する。少年の先導で複雑に続く真っ暗闇の通路を進む。必死で彼の後を追っていくと、アメリカ側の出口に到達した。何かあったら、バラを目印にして。少年がアデラにバラの絵の描かれたカードを渡す。
ニュースは伝える。増加する不法移民。米国への移民の急増。人々を土地から追い出すカルテル。メキシコ人がカルテルの暴力を逃れ、アメリカン・ドリームを求めています。問わなければなりません、アメリカン・ドリームは未だ健在かと。アメリカは憎悪、経済、人種、宗教によって分断されています。人種間の緊張が至る所に広がっています。デマの拡散に併せて白人至上主義が台頭しつつあります。NFFA(新しいアメリカの建国の父たち)が権力に返り咲きました。NFFAは即座に「パージ」を復活させます。「パージ」は解決策ですか? 富裕層が富を拡大し、貧困層が取り残されます。偏向した報道が不和の広がりを助長していますか? 国は重大な転機にあるようです。憎悪の合衆国。「パージ」は分断された国家を救うことができるでしょうか? 一連の疑問の答えが間もなく出されます。年に一度の流血の休日は再び目前に迫っています。
半年後。テキサス州オースティン近郊にあるタッカー家の牧場。牧場主の父ケイレブ・タッカー(Will Patton)や妹ハーパー・タッカー(Leven Rambin)らが見守る中、ディラン・タッカー(Josh Lucas)が駻馬を何とかして手懐けようと苦労している。腹を蹴られて柵に突き飛ばされたディランは諦めざるを得ない。思ってたのと対して違わないでしょ。あの獣を落ち着かせることができる奴が分かる。フアンがやって来て荒れ馬の柵に入ると、俺を見ろ、落ち着けなどとスペイン語で話しかけ始める。フアンに宥められた馬は遂に地面に体を横たえる。
食肉加工場。アデラが肉の計量に当たっている女性たちの1人に声をかける。元気にしてる? ええ、まあ。1キロが2.2ポンドだって覚えておけばいいわ。大丈夫? 何かあったら聞いてね。いい? ええ。アドヴァイスを終えたアデラは上司のダリウス(Sammi Rotibi)から話しかけられる。彼女はどう? この国に来て2週間で不安なの。彼女は幸運だよ、君にサポートしてもらえるから。彼女はね。あなたも私にこの場所を切り盛りしてもらえるなんて運がいいでしょ。分かってるさ。
アデラとフアンの住まい。アデラが台所に立っている。テレビでは部族長(Gregory Zaragoza)がインタヴューに答えている。パージは怒りを解放しません。怒りを増幅します。憎しみと怒りから成るアメリカ産ウイルスであり、弾丸によって注入され、拡散し、成長し、変異しています。フアンがアデラにテレビを切るように言う。アデラが作る料理をきっかけに2人は故郷を話題にする。ダリウスに食べさせるといい、本物のメキシコ料理が作れるようになるさ。食えたもんじゃないブリトーじゃなくてさ。フアンがスペイン語で話しがちなのをアデラが咎める。私たちどこにいるの? 英語を使わないと。郷に入ればって? 私のために英語を使って、お願い。
ディラン・タッカーと身重の妻キャシー・タッカー(Cassidy Freeman)がダゥトン・レヴィー(Joshua Dov)の家に招かれ、テーブルを囲み、談笑している。タッカー家はすごく感謝してる、本当だ。ディランにダゥトンが答える。奥さんが妊娠してるから、助けが必要ならいつでも来て欲しい。みんなで閉じ籠もっていられる。私、「パージ」が大嫌い。キャシーが訴える。あの晩に人付き合いなんてうまくできっこないさ、招待には感謝するよ。いつでもどうそ。いい匂いね。レヴィー家の住み込みのベビーシッターのアナ(Lupe Carranza)が立ち上がる。台所に行きます。何か必要なものは? ビールをもらえる? 私ね、最近掃除機みたいに目に入ったもを何でも食べちゃうの。嫌いなものでも。お腹の大きなキャシーが溢す。アナが料理を作ってくれるの、すごく美味しいメキシコ料理なの。ダゥトンの妻エミリー・レヴィー(Annie Little)が嬉々として言う。それはいいんだけど、太っちまうんだよな。2キロは増えた。ダゥトンが言うのを、それはないでしょとキャシーが応じる。エミリーは、アナには同じくベビーシッターをしている妹がいるから会うといいとタッカー夫妻に薦める。だがアナがレヴィー家の子どもたちとスペイン語で話すのを見ていたディランは会う必要はないと言う。俺らは問題ない。エミリーは親切で申し出てくれてくれてるのよ、ちょっと失礼じゃない? 俺が? 悪いな、エミリー。いいえ、気にしないで。いいお手伝いさんを見付けるのって本当に難しいわ。アナの妹は素晴らしい人なの。アナの妹にあう必要はないんだよ、エミリー。自分たちの子どもがスペイン語を話すなんてぞっとずるぜ。まあ、ご提案には感謝する、だがな、遠慮するぜ。
町を歩くアデラがイヤホンで英語の音声教材を聞いている。レッスン12。過去時制。"Who would've thought I would be in Texas?" 暗唱すべき例文が繰り返される。周囲に目をやると、移民排斥を訴える落書きや、「パージ」に向けた張り紙が目立つ。通行人も、「パージ」に事を起こそうとしている禍々しい出で立ちの連中ばかりに目が行ってしまう。"I was just visiting friends in Texas." 例文の音声が続く。
アデラ(Ana de la Reguera)とフアン(Tenoch Huerta)は、メキシコの麻薬カルテルから逃れて新しい生活を築くため密かに米墨国境を越えた。2人はテキサス州オースティン近郊に居を構え、アデラは町の食肉加工場で、フアンはタッカー家の牧場で働いていた。牧場主ケイレブ・タッカー(Will Patton)はフアンをカウボーイとして見込んでいるが、息子のディラン・タッカー(Josh Lucas)はヒスパニックを毛嫌いし、同僚のカーク(Will Brittain)はフアンを追い出そうとディランに讒言を繰り返す。アメリカでは、政権に返り咲いたNFFA(新しいアメリカの建国の父たち)が、年に1度、夜7時から翌朝7時までの12時間、殺人を含むあらゆる犯罪が合法化される「パージ」法を復活させていた。休日となる「パージ」当日、「パージ」に参加する人々(=「パージャー」)が奇妙な装いで銃器を手に町に姿を現した。アデラとフアンは、フアンの同僚で友人のT.T.(Alejandro Edda)にヒスパニックのシェルターに連れて行ってもらい、無事に12時間を乗り越えることができた。フアンとT.T.がタッカー家の牧場に向かうと、人の気配がなくやけに静かだった。厩舎から馬が逃げ出すのを見て異変に気が付いた2人は、ケイレブ、ディラン、ディランの妹ハーパー(Leven Rambin)、ディランの身重の妻キャシー(Cassidy Freeman)が「パージャー」に捕まっているのを目撃する。アデラの食肉加工場も人の気配が無かった。アデラは建物の裏手に檻に入れられたヤギがいるのを目にして、出してやろうとするが、それは罠だった。
近未来のアメリカを舞台にしたスリラー。アクション映画の範疇だが、アメリカ社会の現状に対する危機意識が如実に反映された作品である。
年に1度、夜7時から翌朝7時までの12時間、殺人を含むあらゆる犯罪が合法化される「パージ」法は、アモック的症候を抱える人々に捌け口を提供することを社会の安全弁として法制化したものと言える。この制度の本質を、今やもう「誇り高きアメリカ人(a proud American)」とは何かが分からなくなったと嘆く牧場主ケイレブ・タッカーは見抜いている。ネイティヴ・アメリカンから土地を奪って建国して以来、貧しい人々を踏み台に金持ちが豊かになるシステムが罷り通ってきた。武器を手に「パージ」に参加する者は、殴り合いさえしたことのない金持ちのゴルフの機会を増やすために下働きする貧しい偽善者に過ぎない。ネイティヴ・アメリカンの視点を導入することで、貧しい白人の「奪われた」との意識は相対化される。のみならず、怒りの矛先が向けられるべき収奪者について再考を迫る。しかし、諫言は耳に逆らうもの。「パージ」に参加して銃器の力を自己の能力と誤認した者は、その力の行使の誘惑に逆らえず、真実を語る口を封じることになるだろう。