可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 佐藤卓TSDO個展『in LIFE』

展覧会『ギンザ・グラフィック・ギャラリー第388回企画展 佐藤卓TSDO展「in LIFE」』を鑑賞しての備忘録
ギンザ・グラフィック・ギャラリーにて、2022年5月16日~6月30日。

デザイン会社TSDO代表でもあるグラフィック・デザイナー佐藤卓の仕事を、個人の仕事(1階展示室)とTSDOの仕事(地下1階展示室)とに分けて紹介する企画。

佐藤卓の個人の作品を紹介する1階展示室では、自らデザインした牛乳パックの角を三角錐状に切り取り拡大した立体作品《MILK》、紙を断裁しながら貼り付けて立体を造形する工業機械を用いて製作した立体作品群《紙の化石》シリーズ(派生作品《ひらがな立体》を含む)、チューブから中身が飛び出した様を巨大化したオブジェ《MASS》、ソーラー・パネルのエネルギーで歩く仕草を続ける人形《光で歩く人》などを展示している。シリーズごとに自作解題が付されている。
TSDOの仕事を紹介する地下1階展示室では、壁面に設置した17枚のパネルそれぞれに地域①~⑤、医療、展覧会①~④、解剖①~②、ブランディング①~⑤のテーマを割り振ってプロジェクトを紹介し、床に設置した24個の台それぞれにプロダクトを置いて側面に解説を施している。

「デザインの展覧会をしています/どうぞお気軽にお入りください/佐藤卓」と、ギンザ・グラフィック・ギャラリーの通りに面したガラスの壁面に記してあった言葉にいきなり感銘を受けた。デザインに関わっている人や関心のある人だけでなく、通りがかりの人にも見てもらいたいという思いが端的に表明されている。デザインの業界に身を置いている人にとってはギャラリーは身近な存在であろう。だが、それゆえに一般的にはそれほど足を運びやすい場所ではないということを忘れてしまうのではないだろうか。それを忘れず配慮できるところに、デザイナーの姿勢が現れていた。
展覧会のカタログ(図録)のみならず、プロジェクト(例えば、茨城県における干し芋振興事業「ほしいも学校」など)に関連した書籍の制作を積極的に手懸けている。趣旨と文脈の決定、編集、視覚化という過程を経る書籍の制作は、そのままデザインを考えることに通じるためであるらしい(《紙の化石》シリーズでは食べ物(ピーマン、イチゴ、煮干し?)などと本とを組み合わせた立体作品が見られ、本の形状自体にも関心が向けられていた)。
物産振興やインハウスデザインナーとの協同では、外部の新鮮かつ客観的な視点で地域や企業の魅力を引き出すことを目指すと訴えられていた。地域や企業に限らず、およそ対象に対し常に新鮮かつ客観的な視点で潜在能力を引き出す姿勢をとり続けているのだろう。そのために、《MILK》や《MASS》のようにありふれたものを拡大してみたり、《紙の化石》のように異種のモノを組み合わせたり延長(続きを想像)してみたり、といった実験を重ねている。
ラベルレスのPETボトルを始め、製品に情報や視覚効果を付与することが回避される傾向にある。簡素化されるパッケージに対し、電子メディアの画像や動画による表現が重視される傾向が強まる。そのとき何が失われ、失われるものをどのように取り戻すのかを、俎上に載せている。
身の回りの生活用品は売り場で目立つことが求められ、家庭ではインテリアに馴染むことが求められる。それは「資本主義の競争原理と民主主義の自由主義からくる矛盾」であると説明されていた。インテリアに馴染むことと「民主主義の自由主義」との関係が腑に落ちなかったが、インテリア・デザインを思うように設定するために既製品を選択することで市場というシステム関与するということであろうか。