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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 竹村京・鬼頭健吾二人展『色と感情』

展覧会『竹村京・鬼頭健吾「色と感情」』を鑑賞しての備忘録
ポーラ ミュージアム アネックスにて、2022年6月17日~7月24日。

竹村京による刺繍を用いた作品7点、鬼頭健吾による円形画面の絵画4点と骨格標本を用いたインスタレーション、及び両作家の共同制作作品7点の、計19点を展観する企画。

竹村京・鬼頭健吾《Playing Field, Dance of Death》(1030mm×1560mm×40mm)は、モノクロームの花の写真をプリントした布に、布や刺繍や描画を施した作品。緑と白の縞模様の布には白糸で刺繍された骸骨が、その手前には、白い骸骨と向き合う黒糸で刺繍された骸骨が背を見せる。タイトルを踏まえれば骸骨が手を取り合って踊る「死の舞踏(Dance of death)」の表現であろうが、縞の布の存在が姿見のように見えるため、骸骨が自らを鏡に映し出して見詰める様とも解される。もっとも、自らの死を見ることは叶わない。死は常に他者の死である。他者の死を契機に(すなわち鏡として)自己の来し方を振り返るよう促す「メメント・モリ」のメッセージの含意されている。作品の背景を成す花は生命の儚さを表わし、死を象徴する骸骨とともにヴァニタスを構成していることは疑いない。

展示室の中央に設置された鬼頭健吾のインスタレーション《Golden Tones》は、いずれも脚の無い5体の骨格標本を天井からザイルで吊したもの。骸骨はそれぞれデザインや生地の異なるワンピースを纏い、頭にはシンバルが取り付けられている。シンバルに取り付けられたザイルは、天井から下がる、8本4色のカラーの角パイプのいずれかに結び付けられている。頭蓋骨などから赤、橙、黄、青、緑などのチューブがループして伸び、骸骨たちを接続している。骸骨の手は天井から延びるザイルで引っ張られている。骸骨の手が持ち上げられることで動きを生み、脚がないことで浮遊感を演出する。「死の舞踏(Dance of death)」である。楽器であるシンバルが音楽を想像させるのはもとより、個々のシンバル(骸骨)の高さのズレは音階を、衣装やチューブや角パイプなどの色は音色を、それぞれ表現するようだ。骸骨を吊すのが登山での命綱となるザイルであるのは(色味の問題は別として)皮肉を籠めてのことであろうか。死の舞踏は墓穴へ連なるが、山のイメージは社寺参詣曼荼羅を連想させなくもない。床に残された3本の白木の棒は、ドラム・スティックと考えるべきであろうか。一方だけを揃えて置くことで終焉へと向かうデクレッシェンド的イメージを形作ってもいる。

竹村京・鬼頭健吾《Playing Field, with Garden by Mirei Shigemori》(1030mm×1560mm×40mm)は、敷石と苔とでできた市松模様が特徴的な東福寺本坊庭園北庭のモノクローム写真をプリントした布に、布や刺繍や描画を施した作品。(緑(苔)と白(敷石)の補色に相当する)赤と黒タータンチェックの布や、縫い込まれた三目並べの格子によって、市松模様が増殖されている。市松模様という方形の連続によって作庭が空間の構成ないし要素の配置であることが引き立たせられるとともに、三目並べという単純なゲームによって規則性が強調される。ルールに基づいた遊び場すなわち運動場(playing field)が表わされている。そして、ルールに基づく運動場とは、物理法則に基づいて天体の運行する宇宙のメタファーである。

竹村京《2 Grey Circles on Orange Ground》(1615mm×1310mm)は、絹の布の右上に大きな円を、左下に大きな円の4分の1ほどの円をそれぞれ周灰の太い円周で表わし、その内部(但し、小さな円には一部食み出す部分がある)に黄、橙、緑、桃など様々な絹糸の線を重ねた刺繍を施した作品。見る角度(位置)を変えることで布の表面に現れる模様(光沢)が変化するため、動きを感じさせる。大小2つの円は、それぞれ膨張と縮小を繰り返す宇宙(サイクリック宇宙)の表現と捉えることもできよう。