可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 髙田唯個展『混沌とした秩序』

展覧会『ギンザ・グラフィック・ギャラリー第389回企画展 髙田唯 混沌とした秩序』を鑑賞しての備忘録
ギンザ・グラフィック・ギャラリーにて、2022年7月11日~8月25日。

グラフィックデザイナー・髙田唯の仕事を展観する。1階展示室では、胴の無い、頭部と手脚で表わされた人の形をデザインした色取り取りの凧だけを壁と天井に飾る。地下1階展示室では、自らの作品とともに指導している学生の課題なども取り混ぜて28のトピックに分けて紹介し、関心を寄せるテーマとともに発想のきっかけを得るための視点を明らかにする。

ori.studioとの共同制作による髙田唯の作品集『AXIS』は、中央に穴の穿たれた頁が軸(axis)に通される形で製本されている。地下1階の展示品についてのコメントを掲載したリーフレットも同様に、中央に穴が開けられて、軸に通された状態で配布されている。1枚の頁ないしリーフレットにもわずかとは言え厚みがあり、それぞれを三次元(空間)と捉えれば、軸は時間を示す4次元となる。実際、作品集は過去の作品を集めた歴史であり、時間の積層でもある。1枚の頁ないしリーフレットが作品やプロジェクトのための時間を表わすとするなら、それが重ねられた状況は5次元となる。そこでは時間は一方向に進まず、過去のプロジェクトも未来である…というような見方を誘う。
コンクリート・ブロックを刳り抜いて、砕いて元に戻した高松次郎の《コンクリートの単体》は、粉々のコンクリート片が隙間によって盛り上がり、元の形とは別の形を生み出す。単体という言葉とその言葉の対象を巡るズレ(単体とはブロックか個々の破片か)を提示する作品であるが、ブロックが象徴する秩序の一部を破壊してそこに混沌を導入した作品と見ることもできる。本展のフライヤーを十数ミリと数ミリの極小の短冊状に切り離し、それを元通りに並べて接着した作品は、切断と接着による凹凸や陰翳によって当初とは異なるモザイク画のイメージを生み出している。「既にあるものをわざわざ壊し、もう一度戻すという一見無意味ともとれる行為が、決して無意味ではないこと」を示すとともに、本展に冠された「混沌とした秩序」を象徴する作品である。結び目のある紐の両端を左右の手で持っている場合でも、それが4次元の空間なら解けてしまうように、1つ上の次元を導入する発想によって、結び目という「秩序」も解けて「混沌」となる。復元とは時間を遡ることを象徴するなら、そこに時間が一方向に進まないという5次元的発想を見出して、復元という過去に未来の姿を探ろうとする思考実験のようにも見られる。

カラフルな文字の見出しが躍るスポーツ新聞の紙面を小さな方形で切り取ったイメージは、文字としては現れず、それが21×30個に整然と並べられることで、新しい国旗の一覧のように見える。言葉=文字という秩序が解体されることで意味を成さない混沌の状態がもたらされるが、色取り取りの矩形が整列されることで、新たな秩序として姿を表す。
色紙に正円を穿った作品が展示されている。ある存在を失わせることで、別の存在が立ち現われることになる。混沌と秩序と同様、不在と存在という相反するものの組み合わせがある。
樹皮の模様、空き缶やペットボトルのごみ箱、北(方位)の表示、100円を表示するタグなど、路上観察的手法を採用して着想を得ようとしている。