可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』

映画『ジュラシック・ワールド 新たなる支配者』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のアメリカ映画。
147分。
監督は、コリン・トレボロウ(Colin Trevorrow)。
原案は、デレク・コノリー(Derek Connolly)とコリン・トレボロウ(Colin Trevorrow)。
キャラクター原案は、マイケル・クライトン(Michael Crichton)。
脚本は、エミリー・カーマイケル(Emily Carmichael)とコリン・トレボロウ(Colin Trevorrow)。
撮影は、ジョン・シュワルツマン(John Schwartzman)。
美術は、ケビン・ジェンキンス(Kevin Jenkins)。
衣装は、ジョアンナ・ジョンストン(Joanna Johnston)。
編集は、マーク・サンガー(Mark Sanger)。
音楽は、マイケル・ジアッキノ(Michael Giacchino)。
原題は、"Jurassic World: Dominion"。

 

アラスカの西方130キロのベーリング海。漁船が海底からクレーンで籠を引き上げている。籠が海上で宙吊りになったところを、モササウルスが海中から飛びかかり喰らいつく。漁船はモササウルスにクレーンごと引っ張られて横倒しになる。
現代の恐竜を解説するドキュメンタリー番組。結婚式で新郎新婦が放った鳩に喰らいつき飛び去るプテラノドンジュラシック・パークジュラシック・ワールドの廃墟、ヌブラル島のシボ山の火口などが映し出される。ジュラシック・パークの惨劇から30年が経過しましたが、恐竜との共生は道半ばです。シボ山の大規模な噴火を生き延びた恐竜はヌブラル島から本土に移されました。リポーターのジェマ・ジャオ(Jasmine Chiu)が森の中を歩きながらカメラに向かって語っている。比較的大きな肉食恐竜の多くは捕獲されましたが、その他はここビッグ・ロック国立公園に放されました。ほとんどは野生化しましたが、慣れない環境への適応に困難な恐竜もいます。地元当局は恐竜の行動は予測不能で、空腹時に極端に暴力的になると警告を発しています。アロサウルスがキャンピングカーを倒す映像などが流れる。恐竜が国境を越えて広がるとともに、国際的な闇市場も勃興しました。ペットショップでの恐竜の不法取引が摘発され、ケージに入れられた恐竜の仔が警察官によって運び出される。密漁に脅威の増大に対処すべく、アメリカ合衆国議会は独占捕獲権を世界的大手企業バイオシン・ジェネティクスに認めています。バイオシンのCEOルイス・ドジスン(Campbell Scott)による、恐竜から人間についてより多くのことが学べるとの同社のモットーが紹介される。ドジスンはドロミテ山脈に保護区を作り、恐竜の免疫系に独自の薬理作用を求める研究を行っています。バイオシンは遺伝子の力を確実に制御できると考えていますが、人々は懐疑的です。線路脇で地面を啄むスティギモロク、高層ビルの屋上に巣を作るケツァルコアトルスなどの映像が流れる。私たちは恐竜を絶滅から復活させましたが、それがもたらした事態にきちんと向き合えているでしょうか。私たちが恐竜の生存を保障するのか、恐竜たちが自力で生存するべきなのか。人間の安全のみならず恐竜の安全のためにもこれらの問いに答えを見付けなくてはなりません。
ネバダ州。夜、肉用牛繁殖農場の敷地の金網フェンスのチェーンを切断して敷地に侵入したクレア・ディアリング(Bryce Dallas Howard)とジア・ロドリゲス(Daniella Pineda)は走って畜舎へ潜入する。ジアはスマートフォンを取り出して檻に入れられた恐竜を説明しながら撮影する。恐竜の違法繁殖施設では、コスト削減のために檻に入れています。旧態依然としたやり方です。クレアはナーストケラトプスの仔が1頭だけギリギリ収まる籠に入れられて置かれているのを見付ける。何で別にされたと思う? こんなの絶対駄目だよ。ジアは足に取り付けられたタグを外す。何してるの? これを報告しよう。生物資源局の調査には何日もかかるよ。2人はナーストケラトプスの籠をフェンスに向かって運び出す。そこへ白いバンがフェンスを破って突入してくる。バックドアが開き、フランクリン・ウェブ(Justice Smith)が2人に早く乗り込むよう促す。だがフランクリンは恐竜の入った籠を見てぎょっとする。2人は籠からナーストケラトプスを取り出すとバンに連れ込む。クレアの運転でバンは猛スピードで走り出す。2台のピックアップ・トラックがバンを追尾する。追手がバンのタイヤを狙撃する。クレアはトリケラトプスなどの放牧場の中を抜ける。2台のピックアップ・トラックは恐竜たちの攻撃により倒されて、クレアたちは辛うじて難を逃れることができた。朝。バンを降りてその空気を吸っていたクレアは、バンに座っている二人に、ナーストケラトプスを生物資源局に連れて行った後、再び繁殖施設を襲撃することを提案する。だが就職の決まったフランクリンはこれ以上は付き合えないと断る。恐竜たちには私たちが必要でしょ? 恐竜たちが必要だから助けてるのかい? それとも自分の贖罪のために恐竜を助けてるのかい? ジアも正しいことをしているけれど、とフランクリンの意見に同調する。
シエラネバダ山脈。雪原を駆けるパラサウロロフスの群れを騎乗の3人が追っている。オーウェン・グレイディ(Chris Pratt)は投げ縄を1頭の首に巻き付けるが、恐竜の力と急斜面とが相俟って馬から落とされ引き摺られてしまう。切り株にロープを巻き付けることで何とかパラサウロロフスの動きを止めることができた。オーウェンは鼻筋を撫でてやり落ち着かせる。騎馬隊が1頭のパラサウロロフスを伴って移動するのを、遠くから眺めている男たちがいた。
山小屋の前でメイジー・ロックウッド(Isabella Sermon)が薪割りをしている。彼女は自転車に乗って山道を下り、橋を渡って製材所へ向かう。降りしきる雪の中、大勢の作業員たちが貯木場に現れたアパトサウルスを静かに眺めていた。メイジーはその中の1人に耳打ちする。クレーン車に乗った作業員が発炎筒を焚いて、恐竜を誘導する。2頭のアパトサウルスがゆっくりと雪の中に姿を消していく。
メイジーが帰宅すると、山小屋の前でクレアがドラム缶の炎に何かを焼べている。クレアはメイジーに声をかける。どこに行ってたの? どこにも。何を燃やしてるの? 古い毛布よ。橋を渡ってないわよね? 噓をついてるって疑ってる目ね。噓をついてるの? いいえ。あっちこっち見て回ってるでしょ。橋は渡ってないって。メイジーが家に入ると、クレアが後を追う。もう1度確認するけど。私を見付けようと何でもするヤツらがいるって言うんでしょ。私は怒ってないし、あなたも怒る必要はないの。怒ってないよ、自分のことは自分でできるってだけ。お互い助け合えばいいのよ、みんながしているように。みんながどうしてるか何て知らないよ。4年間2人としか話してないんだから。それに私は人間でさえないし! 何ですって! 私は他の誰かのコピーなの。私は私じゃない。あなたはあなたよ、ずっと。オーウェンが車で帰宅する。メイジーが出て行って抱きつく。馬の匂いがする。クレアが近づくと、メイジーは離れる。クレアはオーウェンと抱き合い、報告する。また町に降りたの。話した? 話そうとはしたけど。僕が話そう。

 

シボ山の大規模な噴火を機にヌブラル島で飼育されていた恐竜たちが本土に移されると、恐竜は徐々に生息域を拡大した。死亡事故を含め人々と接触する場面が増えるとともに、恐竜の密猟と闇取引が横行するようになる。ルイス・ドジスン(Campbell Scott)が率いるバイオシン・ジェネティクスは、アメリカ合衆国議会から独占捕獲権を認可され、ドロミテ山脈に保護区を設立して恐竜を用いた薬理研究を行っている。
クレア・ディアリング(Bryce Dallas Howard)はジア・ロドリゲス(Daniella Pineda)とフランクリン・ウェブ(Justice Smith)とともに恐竜の保護活動を行ってきたが、違法繁殖施設摘発のための潜入調査は行き詰まっていた。また、クレアは、やはり恐竜の保護に当たっているオーウェン・グレイディ(Chris Pratt)とともにシエラネバダ山脈の山小屋にメイジー・ロックウッド(Isabella Sermon)を匿い養育していた。メイジーはシャーロット・ロックウッドのクローンであり、彼女のDNAを利用したい組織が血眼になって捜していた。
アメリカ合衆国の中西部では巨大なイナゴの大群が発生し農作物に壊滅的な被害を与えていた。ところが、バイオシンの販売品種だけは全く被害がない。エリー・サトラー博士(Laura Dern)は、バイオシンによる意図的な蝗害ではないかと疑い、旧知のアラン・グラント博士(Sam Neill)とともにバイオシンの研究所に潜入することを企てる。

恐竜の生態を身近に感じられるアミューズメント・パークのような映画はスペクタクルを提供するだけではない。恐竜を使って、人間と生物との関わりを諷刺している。恐竜を利用するバイオシン(Biosyn)の企業名が、生命(bio)を利用することの罪(sin)を暗示しているように、倫理的な問題に対する解決が不十分なまま科学が応用されていることに警鐘を鳴らしている。
アメリカ合衆国中西部の蝗害ではバイオシンの品種だけ被害を受けない。エリー・サトラー博士は、バイオシンが穀物種子市場の支配を狙って巨大なイナゴ(白亜紀以降には絶滅したイナゴの遺伝子を持っている)を利用したと判断し、バイオシンの研究所への潜入を企てる。バイオメジャーが遺伝子組み換え作物によって穀物種子市場を支配する構造が重ねられている。
クローニング技術で生まれた(厳密には、遺伝病を排除するために遺伝子の組み換えというデザインも行われていた)人間のアイデンティティの問題は、ほとんど遺伝子より育ちという形で落着させる。それを可能にする力は、身体や物体(あるいはそれらの関係性)が情報に接近しあるいは置換されていく力に対する、反作用の力だ。バイオシンの研究所に対して、クレア、オーウェン、メイジーの暮らす山小屋が対置される。
ヴェロキラプトルのブルーとその子べータの動きが愛くるしい。