映画『トップガン マーヴェリック』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のアメリカ映画。
131分。
監督は、ジョセフ・コジンスキー(Joseph Kosinski)。
キャラクター創造は、ジム・キャッシュ(Jim Cash)とジャック・エップス・Jr.(Jack Epps Jr.)。
原案は、ピーター・クレイグ(Peter Craig)とジャスティン・マークス(Justin Marks)。
脚本は、アーレン・クルーガー(Ehren Kruger)、エリック・ウォーレン・シンガー(Eric Warren Singer)、クリストファー・マッカリー(Christopher McQuarrie)。
撮影は、クラウディオ・ミランダ(Claudio Miranda)。
美術は、ジェレミー・ヒンドル(Jeremy Hindle)。
衣装は、マーリーン・スチュワート(Marlene Stewart)。
編集は、エディ・ハミルトン(Eddie Hamilton)。
音楽は、ハロルド・フォルターメイヤー(Harold Faltermeyer)、ハンス・ジマー(Hans Zimmer)、ローン・バルフェ(Lorne Balfe)。
原題は、"Top Gun: Maverick"。
1969年3月3日、アメリカ合衆国海軍は、頂点の1%を占める飛行士のための学校を設立。その目的は、格闘戦、空中戦について学んだ最優秀の戦闘機飛行士を養成することである。その目論見は成功し、今日、飛行士たちはその学校を「トップガン」と呼ぶ。
カリフォルニア州のモハーヴェ砂漠。飛行機の格納庫では、ピート・ミッチェル大佐(Tom Cruise)が1人食事をとり、飛行機を整備している。壁にはピートと仲間たちとの写真が貼られている。ライダース・ジャケットを羽織ったピートは、バイクに跨がると、沙漠を突っ切る道路を抜け、海軍の航空基地へと向かう。
ピートが極超音速試作機「ダークスター」の格納庫に到着すると、バーニー・コールマン准尉(Bashir Salahuddin)らが沈痛な面持ちで出迎える。当初計画から遅れていることを理由に計画の中止が命令されたと言う。誰の指示? ケイン少将(Ed Harris)です。予算を無人機の計画に組み替えようと、計画を終了させるためにこちらに向かっています。少将がマッハ10を欲しがるなら、差し上げようじゃないか。ケイン少将が到着する前にマッハ10の飛行を成功させるべく、ピートは即座に「ダークスター」に搭乗し、管制と交信しながら発進準備を開始する。エンジン始動。加速準備。離陸準備完了。発進許可を願います。ダークスター、滑走路の利用が可能です。ケイン少将が基地に到着する。中止するなら今だとバーニーがピートに伝える。マーヴェリック、続けたらどうなるか分かりますよね? やらなきゃどうなるか分かってるさ。「ダークスター」、離陸準備完了。発進の準備を。エンジン準備完了、燃料準備完了、制御装置準備完了。「ダークスター」は離陸許可。「ダークスター」が発進。滑走路脇で車を降りたケイン少将に、上空を通過する「ダークスター」の風圧がかかる。管制に向かった少将は大佐に帰投を命じるが、ピートは通信状況が悪いフリをして命令に服さない。現在マッハ7。8へ。フライトデータは? 良好です。温度は上昇中。数値は安定。問題ありません。「ダークスター」は徐々に速度を上げ、マッハ9.0に到達。ピートは加重と衝撃波に耐えながら、なお加速していく。機体の温度が上昇する。遂にマッハ10.0を記録。管制のメンバーたちはそれぞれに喜びを爆発させる。だが大佐は減速することなくさらに加速を続ける。機体は熱と衝撃とに耐えられなくなり、制御装置が故障。10.4を記録して、「ダークスター」は管制との交信を途絶させる。
材木を載せたトレーラーが轟音を上げて走り去る道路。フライトスーツに身を包んだピートがとぼとぼと歩いて行く。地元の家族連れで賑わうレストラン。遭難したと思しきパイロットの突然の登場に場が凍り付く。年配のウェイトレスがトレイに載せていたグラスの水を、煤けた顔のピートが所望する。居合わせた者たちが水を飲み干すピートを固唾を呑んで見守っている。ありがとう。ところで、ここは何処なんです? 地球だよ。カウンターに座る少年が教えてくれた。
チェスター・ケイン少将の命令でピート・ミッチェル大佐が出頭している。マーヴェリック。30年以上の軍務経験。勲章の数々。過去40年間で敵機を3機撃墜した唯一の男でもある。卓越した努力の賜だ。だが昇進も引退もしない。あらん限りの精力を傾けて死を拒み続けている。少なくとも少将には就いているべきだ。あるいは上院議員かな。しかし、君はここにいる。何故だね? 私自身にとっても大いなる謎であります。巫山戯るな。私が質問している。自分の属する場所におります。海軍はそうは考えていない。時代は変わったんだ。君が試験飛行している飛行機はだな、大佐。遠からず飛行士の需要は存在しなくなる。睡眠、食事、排泄が必要な飛行士。命令に服従しない飛行士。君のやったことは彼らをわずかに延命させることに過ぎん。未来への道程に君らの居場所はない。荷造りしてる間に別れを告げ給え。1時間後にサンディエゴに向かってもらいたい。ノースアイランドですか? 連絡が来たんだ、完璧なタイミングでな。未来永劫の罰を与えようと思った矢先にだよ。こんな言い方はしたくないがね、守護天使の存在を認めざるを得んよ。君は「トップガン」に呼び戻されたんだ。行ってよろしい、大佐。マーヴェリック、君のような種は絶滅必至だ。そうかもしれません。ですが、今日ではありません。
カリフォルニア州サンディエゴ。アメリカ海軍太平洋艦隊基地。ピートが司令部に入っていくと、壁に掛けられた太平洋艦隊司令官トム・カザンスキー大将(Val Kilmer)の肖像写真が目に入る。海軍航空隊司令官ボー・シンプソン中将(Jon Hamm)とソロモン・ベイツ少将(Charles Parnell)がホールで待っていた。中将が語りかける。ピート・マーヴェリック・ミッチェル大佐。評判は兼兼。ありがとうございます。讃辞ではない。少将が中将と自らをピートに紹介する。正直なところ、呼び戻されるとは思っていませんでした。2人には共通点があります。中将は1988年に最高評価を受けている。自分は2番目でした、中将。期待に応えようとしたまでだ。ともに目標を達成したい。中将はスクリーンにイメージを映して説明を始める。無許可のウラン濃縮工場が存在する。NATOの協定に違反して建設されたものだ。生産されたウランは地域の同盟国に直接の脅威をもたらす。完全稼働の前に破壊する急襲部隊の編成を国防総省が求めてきた。施設はこの山に囲まれた地下掩蔽壕にある。そこに至る渓谷ではGPSが機能しない上、稜線には熱探知ミサイルが並ぶ。限定数の第5世代戦闘機が近隣に配備されている。攻撃ヘリや支援目的の戦闘機もある。F14型戦闘機までもね。懐かしさに浸るのは我々だけだろうがね。大佐の見立ては? F35が静音飛行すれば容易い話ですが、GPSが機能しないなら却下です。レーザー誘導弾を用いて、F18で達成可能かと。2発を目標に投下します。最小の編成は、4機をペアで。投下後に急斜面をどう抜け出すか。頂上まで急上昇すればミサイルは避けられるでしょうが、それでも敵機との格闘は不可避ですね。君は経験からあらゆることを学んでいる。ですが同じ任務はありません。帰投は不可能なようです。可能性はあるのかないのか? 施設の完全運用までの期間は? 3週間か、おそらくそれ以内だ。F18の操縦は久しぶりです。他の3人の飛行士についても信頼できる相手を見付けなければなりません。是が非でも解決しますが。君は誤解しているようだね、大佐。君に飛べとは言っていない。望むのは教官だ。指導ですか? 12名の優秀な飛行士を選抜してある。中将はスクリーンに12名の顔を表示する。6名に絞り込み給え。今回の作戦で飛んでもらう。何か問題は、大佐? 彼は誰ですか? ピートが1人の男性を指摘する。ブラッドリー・ブラッドショー(Miles Teller)。「気ドリ屋(Rooster)」。君は彼の父親と飛んだことがある。彼は何と呼ばれてましたか「ガン(Goose)」だ。
アメリカ合衆国海軍所属の飛行士ピート・ミッチェル大佐(Tom Cruise)は数々の輝かしい功績を挙げながら30年以上現役を続け、現在はモハーヴェ砂漠の基地で極超音速試作機「ダークスター」のテストパイロットをしている。チェスター・ケイン少将(Ed Harris)は無人飛行機に予算を組み替えようと「ダークスター」計画の進捗状況を理由に中止を命じる。ピートは計画の存続を図るため、急遽行った試験飛行で目標であるマッハ10.0を記録するものの、無理な飛行により試作機を空中分解させてしまう。太平洋艦隊司令官トム・カザンスキー大将(Val Kilmer)の後ろ楯があり、ピートはノースアイランド海軍航空基地の「トップガン」の教官への転属で事無きを得た。ピートは海軍航空隊司令官ボー・シンプソン中将(Jon Hamm)から、某国のウラン濃縮プラントを破壊する急襲計画とそのメンバーの育成・選抜に当たるよう命じられる。ジェイク・セレシン大尉(Glen Powell)、ナターシャ・トレース大尉(Monica Barbaro)など12人の候補生の中に、ブラッドリー・ブラッドショー(Miles Teller)がいた。かつて訓練中の事故で死亡し、ピートがその死に責任を感じている僚友ニック・ブラッドショー(Anthony Edwards)の息子だった。着任前、多くの軍人・軍属で賑わう基地近くのバーに立ち寄ると、かつて交際したペニー・ベンジャミン(Jennifer Connelly)がオーナーを務めていた。ピートは客の中にブラッドリーの姿を認める。
『トップガンTop Gun』(1986)の続編だが、前作未見でも鑑賞に支障は全くない。
冒頭、有人による試験飛行プログラムを中断し、無人飛行へ予算を組み替えるエピソードが描かれる。有人飛行に拘るマーヴェリックことピート・ミッチェル大佐は、CGによる映画制作が主流となる中、実写に固執するTom Cruiseの似姿である。30年間現役を貫くマーヴェリックは、長年に渡りアクションに挑み続ける俳優Tom Cruiseそのものなのだ。映像に惹き付けられるのは、実写だからこそ伝わるものがあるからだろうか。
およそ若さを良しとする風潮や、父っちゃん坊やが「アイドル」として大手を振って罷り通る日本の惨状には辟易するが、本作のTom Cruiseの若さの美学には捩じ伏せられてしまう。
それでも、病気により声を失ったトム・カザンスキー(Val Kilmer)の「声」を文字通り借りて"It's tme to let go."と訴えさせるのは、Tom Cruiseが時計の針を進める(若さの美学に執着しない)ことを宣言するものとも解し得る。
OneRepublicと言えば"Counting Stars"だが、本作の挿入歌"I Ain't Worried"も素晴らしい。ヴィデオ・クリップは『トップガン マーヴェリック』の魅力をよく伝えている。
飛行訓練中、教官のマーヴェリックが教え子のルースターに"Don't think, just do."と訴える。瞬時の判断が生死を分ける極限的な状況でのメッセージであるだけではない。経験に基づく周到な計画と地道な鍛錬とが前提になっている。それらを飛ばしてはならない。"Don't think, just do."だけを安易に用いるような輩が世の中に溢れている。なお、次のスラヴォイ・ジジェクの引用は、現実を、その外側から見られたままにとらえ」るための方法論としてだが、参考までに。
トランプのねじれた「偉大さ」は、彼が効果的に行為するところにある。トランプは、彼に決断を押しつける書かれざる(また、書かれた)ルールを破ることを恐れないのだ。ヘーゲル(をはじめとする人々)が教えてくれたように、われわれの生は、書かれたルールと不文律――つまり、明示的な(書かれた)ルールの運用の仕方を教えるルール――との入り組んだ網の目によって規定されている。トランプは明示的な法的規制に(多かれ少なかれ)こだわるが、その一方で、そうしたルールをどのように運用すべきかを決定する、書かれざる暗黙の約束を無視する傾向にある。(略)左翼はたんにトランプを非難するのではなく、彼から学び、彼と同じことをするべきである。状況が要求するときには、われわれは臆することなく不可能なことを行い、不文律を破るべきである。残念なことに、こんにちの左翼は過激な行為をする前から恐れをなしている。権力の座にあるときでさえ、左翼はつねに心配している。「こんなことをしたら、世界はどう反応するだろう。われわれの行為はパニックを引き起こすだろうか」と。結局この恐れは「敵は怒って反撃するだろうか」という不安を意味している。政治において行為するためには、この恐れを克服し、危険を冒さねばならない。つまり、未知の領域に踏み出さねばならない。(スラヴォイ・ジジェク〔中山徹・鈴木英明〕『性と頓挫する絶対 弁証法的唯物論のトポロジー』青土社/2021年/p.452)
戦禍を避けるには攻撃の口実を与える軍備増強など無益と考える臆病者だが、それでも本作で描かれるような戦闘機の飛行や軍人の挙措に魅力を感じないわけにはいかない。