可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 なるめ個展『オルタナ』

展覧会『なるめ個展「オルタナ」』を鑑賞しての備忘録
Alt_Mediumにて、2022年8月5日~17日。

少女を描いた絵画で構成される、なるめの個展。

路面店であるギャラリーの通り側のガラス壁面には、透過性の高いボイル生地のタペストリー《オルタナ》(1200mm×680mm)が吊り下げられている。画廊の外からも中からも鑑賞可能な作品であり、作品越しに画廊の中の人や作品を見通せるのみならず、逆に通りを行き交う人や車や電車などと重ね合わせることもできる。透過性によって生み出される、閉じるとともに開かれてもいる感覚、あるいは作品の内外を行き来できるような感覚は、作家の作品の特色を象徴している。

《四角い海底》(510mm×290mm)は、水族館の水槽のガラスに寄りかかる少女を青く弱い光の中に表わした作品。彼女の沈んだ表情は、仄明るい水槽を背に立っているために影となって、憂愁の色を濃くする。彼女の背中の辺りにはエイが、足元の傍には大小2匹の魚が游泳しているが、いずれもシルエットとして表わされている。水槽のガラスには少女の背面が映り込んでいる。彼女はシルエットとなることで、水槽の中で魚たちと同じ世界を共有する。水槽の中とは、ガラスの向こう側という点で、液晶画面の中に広がる世界と等しい。「四角い海底」とは、少女が沈潜するサイバースペースなのかもしれない。そして、青い光の中に佇む少女自身、四角いアクリルパネルに印刷されることで封じ込められている。彼女は画中の「四角い海底」(魚のいる水槽の中)に存在するとともに、メタ「四角い海底」(アクリルパネルの中)にも存在するのである。鑑賞者もまた作品を前にすれば、アクリルパネルに映り込み、少女のいる「四角い海底」に揺蕩うことになる。

《ランデヴ》(290mm×510mm)は、水深の浅いプールの壁面に靠れて腰を降ろす少女を描いた作品。左手手前の上方から見下ろすように少女を捉えている。少女はその視線とぶつかるように見上げており、待ち合わせの相手を見付けた瞬間のようだ。雨の降りしきる中、電話ボックスで受話器を手にする少女を描いた《君の声で》(420mm×297mm)などの影響もあろうが、少女の座るプールにどこか閉鎖的な印象を受ける。そして、彼女のそばに丸まって眠る猫の存在と相俟って、歌川広重の《名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣》を想起させる。遊女屋の格子越しに酉の市で賑わう町を眺める猫を描いた作品で、簪などを留守模様のように描き入れて遊女の姿を省き、猫の視線に遊女の願望が重ねられている。《ランデヴ》では少女自体の姿は描かれているが、丸まって眠る猫と、少女の浸かっている水の揺らぎとにより、まどろみの中で見た世界を表わすように見える。