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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 エカテリーナ・ムロムツェワ個展『Breaking History』

展覧会『エカテリーナ・ムロムツェワ「Breaking History」』を鑑賞しての備忘録
アートフロントギャラリーにて、2022年8月5日~28日。

エカテリーナ・ムロムツェワの絵画展。いずれも水彩画の「Women in Black」シリーズ6点と「Take Lee Down」シリーズ4点とで構成。

「Women in Black」シリーズ(いずれも1130mm×700mm)は、ロシアで黒い服を身に付け白い花を持ちウクライナ侵攻に抗議した女性たちの姿を描く。タイトルも相俟って、遠目には水墨画のような黒白の画面に見えるが、実際には濃紺が用いられている。僅かに差された黄との組み合わせは、ウクライナ国旗の色のそれに近く、ウクライナへの連帯を示す。《Women in Black 18》では、画面の右半分にスカーフを覆いサングラスをかけ、胸に花束を抱えた女性の立像が描かれている。ほぼ正面に向く身体に対して顔は右下に向けられている。画面左側には何も描かれていないため、視線の先に何があるかは鑑賞者に委ねられる。《Women in Black 20》では、2人の女性が並び、1人は頭上にアステリスクを並べた紙を、もう1人は胸の位置に白紙を、それぞれ掲げている。伏せ字や白紙には表現規制が強く印象付けられる。サングラスやプラカード、サングラスなどで抗議者の顔が表現されない中、《Women in Black 22》に至っては、女性の頭部が画面から外され描かれていない。これはデモ参加者が特定されないように撮影された写真のイメージを再現したためであるらしい。
「Take Lee Down」シリーズ(いずれも1840mm×1130mm)は、南北戦争(1861-1865)の際、南部連合の首都であったヴァージニア州リッチモンドにおいて、南軍を率いたロバート E. リー将軍の騎馬像が、BLMの最中、撤去される場面を描く。クレーン車の先に取り付けられた作業員が乗るためのゴンドラが引き上げられ、像を吊るすためのチェーンなどが取り付けられ、像が宙吊りになって運び出され、巨大な台座のみが残される、一連の過程が4枚の画面に表わされている。「Women in Black」シリーズと同様に濃紺で描かれる一方、台座に載せられた名の通った男性の巨大な騎馬像は、地に足を付けた匿名の女性たちと鮮やかなコントラストをなす。そして、傲然と屹立する軍人の「退場」によって、戦争反対の目的が実現されることを祈念するものである。