展覧会『有馬莉菜展―場所と視線―』を鑑賞しての備忘録
JINEN GALLERYにて、2022年11月1日~13日。
絵画14点で構成される、有馬莉菜の個展。
《支笏湖・橋》(242mm×333mm)は、画面手前に白で青海波のような円弧の連なりによって表わした雪原を、後景に雪で覆われた山並みを、その中間に真っ黒な帯が左右に伸び、その中央に雪原と山並みとを繋ぐ赤い橋を描いた作品。白と黒の中に表わされた橋の赤、画面の中央を走る幅の広い黒い線や橋梁の直線、雪原の円弧など幾何学的なモティーフに対する写実的な山容など、コントラストが強調されている。極小さく描き入れられた上空を渡る3羽の鳥の影もアクセントとなるだけでなく、雪景の静止した世界を体感させる。
《月山湖・冬》(242mm×333mm)は、山や凍った湖面が雪に覆われる中、氷の張らない部分から黒い水が、雪の溶けた格子状擁壁工の黒い斜面が覗いている。流木フェンス(?)の赤いブイが暗い湖水の中に点々と連なっているのが印象的。
《鳥海山》(318mm×410mm)には、雪で覆われた山が左右に広がる姿を画面の中央に、画面の下半分には農地を表わす(?)わずかに緑を帯びた黒い面を、上半分には白い空を描いている。山の麓の右手にはくすんだビリジアンの屋根を持つ建物、その周囲には草叢が見える。山裾の左手には6機の白い風車が立っている。空には3羽の鳥の影がある。目を引くのは、その鳥たちの下方、山の尾根に近い部分、画面の対角線の交点からやや外れた位置に配された小さな赤い点である。これは、《支笏湖・橋》の橋梁や《月山湖・冬》の流木フェンスのブイといった具体的なモティーフには見えない。
もっとも、この赤い点は他の作品にも見られる。雪景と思しき白い画面に裸木と枝の支え、旗などをシルエットのように黒で描いた《リンゴの木》(220mm×333mm)では中心よりも右上の位置に、雪の中の小屋や支柱などを描いた《視点Ⅰ》(140mm×180mm)や飛行機の窓からの眺めを描いた《視点Ⅱ》(140mm×180mm)では画面の右上の端に、それぞれ赤い点が配されている。太陽の表現と解することができない訳ではないが、それにしては微細に過ぎる。
鑑賞者は遠近法に慣れ親しみ、自然と消失点を中心とした構造を画面に見ている。その視座は鑑賞者(人間)を神の位置に置くものである。絵画を見ることとは、絵画を支配することに他ならない。赤い点はそうした鑑賞者の眼差しを攪乱する。赤い点からモティーフがどのように配されているか、別の視座に目を奪われてしまう。すなわち、赤い点が画面のモティーフを統御する支配者として鑑賞者に対置されることによって、鑑賞者を唯一の支配者の地位から引きずり下ろすのだ。その意味では赤い点は、やはり「お天道様」(=太陽)なのかもしれない。よって、小さな赤い点を描き入れた作品は、人間中心主義を相対化する試みと解されるのだ。