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芸術鑑賞の備忘録

映画『RRR』

映画『RRR』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のインド映画。
179分。
監督・脚本は、S・S・ラージャマウリ(ఎస్. ఎస్. రాజమౌళి / S. S. Rajamouli)。
原案は、V・ビジャエーンドラ・プラサード(కె. వి. విజయేంద్ర ప్రసాద్ / V. Vijayendra Prasad)。
撮影は、K・K・センティル・クマール(కె.కె.సెంథిల్ కుమార్ /  K. K. Senthil Kumar)。
美術は、サブ・シリル(సాబు సిరిల్ / Sabu Cyril)。
衣装は、ラーマ・ラージャマウリ(రమా రాజమౌళి / Rama Rajamouli)。
編集は、A・スリーカル・プラサード(ఎ. శ్రీకర్ ప్రసాద్ / A. Sreekar Prasad)。
音楽は、M・M・キーラバーニ(ఎం. ఎం. కీరవాణి / M. M. Keeravani)。
原題は、"RRR"。テルグ語題は、"రౌద్రం రణం రుధిరం"。

 

《THE STO"R"Y》
森の中の集落。日傘の蔭に座るインド総督夫人キャサリン・バクストン(Alison Doody)。少女マッリ(Twinkle Sharma)が歌いながらバクストン夫人の手に羽根ペンを使って絵を描いている。2人を集まった集落の住人が見詰め、住人たちをインド総督の兵士たちが取り囲んでいる。
大量の鹿を抱えた兵士たちとともにインド総督スコット・バクストン(Ray Stevenson)が上機嫌で戻ってくる。キャサリンが夫に声をかける。狩りに相応しい日だった? そうだな。キャサリンはマッリに描かせた手の甲の絵を夫に翳して見せる。信じられる? 素晴らしい。誰が描いたんだ? この娘? 私のコレクションに加えよう。スコットは秘書官のエドワード(Edward Sonnenblick)に指示する。総督夫人はおまえの娘の唄に対する感謝の印をお与えになるそうだ。取っておけ。エドワードは2枚の硬貨をマッリの母親ロキ(Ahmareen Anjum)に向かって投げつける。総督一行は帰路につく。その際、マッリを連れて車に乗せる。ロキ、あいつらの金は歌の代金じゃない、あんたの娘を買ったんだ! ロキは娘の名前を叫んで車を追いかける。近道を使って車の前に飛び出す。私の娘を返して! 兵士が車の前に崩れ落ちたロキに向かって銃を構える。スコットが車を降りて兵士を呼び止める。貴様は弾丸の価値を理解しておるのかね? その弾丸はイングランドの金属を使ってイングランドの工場で製造された。それからイングランドの舟で7つの海を渡ったのだ。貴様の弾倉に到達するまでに1ポンドかかっておる。1ポンドもだよ! 貴様はそれを薄汚いゴミに浪費するのかね? スコットが車に戻ると、兵士が近くに落ちていた倒木を拾い上げ、ロキの頭に思い切り振り下ろす。マッリが泣き叫ぶ。車は森の道を走り去る。

《THE FI"R"E》
デリー郊外アナングプール。荒野の中に立つ簡素な派出所。大英帝国の国旗が翻る。鉄条網を張った柵の中には警察官が武装して立つ、周囲にはララ・ラジパット・ライの解放を求める大勢の群衆が詰めかけ、今にも塀を壊して派出所に雪崩れ込みそうだ。所長のフィリップ・グリーン(Richard Bhakti Klein)が本部に救援要請の電話をする。もちろん違う。挑発するようなことは何もしとらん。ララ・ラジパット・ライがカルカッタで逮捕されたことを理由に連中は騒いどるんだ。猛烈だ。今すぐ増援を頼む。7時間かかるだと! 赤い服を着た男が投石して、警察署の壁に掲げられていた総督の写真が落とされる。あの野郎をしょっ引いて来い! 所長の命令が下されるが、怒りが沸点に達している暴徒の中に入り込むのは正気の沙汰では無い。1人ラーマ・ラージュ(Ram Charan)だけが帽子を置き、柵を抜けて逮捕に向かう。暴徒を警棒で蹴散らすが多勢に無勢。裏切り者と叫んで次々と襲いかかってくる群衆に抑え込まれてしまう。だがしょっ引いて来いという命令がラーマの頭の中で何度も繰り返されると、起死回生、再びラーマは群衆を警棒で叩き付けながら投石した男に徐々に近付いてく。鬼神のようなラーマに怯えた男は逃げようとするが断崖の下に追い込まれてしまう。ラーマは群衆の比較的少ない牛や乗り物が置かれた場所へ回り込むと断崖の上に立つ櫓に向かう。ラーマを追いかける人々が殺到して櫓は倒壊。ラーマは自分に縋る男たちを崖下に突き落とし、男たちとともに転がり落ちる。ラーマは遂に投石犯を捕え、暴徒たちを叩きのめしながら何とか派出所に戻る。ラーマは消火用の水を浴びると、帽子を被る。部下が暴徒たちに対する恐怖を吐露すると、所長はもっと恐ろしいのはラーマだと溢す。
デリー。大英帝国の兵舎。毎年恒例の式典で75名中3名のみが並外れた貢献をしたとして表彰された。その3名は全て英国出身者で、現地採用のラーマの活躍は黙殺された。自宅に戻ったラーマは、怒りをサンドバッグにぶつける。サンドバッグに穴が空き、砂が溢れた。

《WATE"R"》
デリー。インド総督公邸の執務室をニザーム藩王国の特別顧問ヴェンカット・アヴァダニ(Rajeev Kanakala)が訪れた。バクストン総督はナイト叙爵のため帰国しているため、エドワードが代理で接見した。最近、総督がアディラバードを訪問した際、少女を連れ帰りました。私たちの藩王はその件について私を派遣しました。地元警察の意見は少女は村に戻されるべきだというもので、私たちの藩王の意見でもあります。何故? 連れ出されたのはゴンドの子です。だから? 彼らは素朴な部族です。たとえ抑圧しても声を挙げようとはしないでしょう。しかし彼らにはある特徴があります。彼らは羊のように群れを成すのを好みます。1匹の仔羊がいなくなっても彼らには大きな苦痛をもたらします。そのような訳で群れには羊飼いがいます。羊飼いは命がけで群れを守ります。ゴンドは強大な大英帝国を弓矢で射落とすことになります。その部族が大英帝国を倒すとでも言うのか? 誤解しないで下さい。私は羊飼いについて伝えるまでです。羊飼いは行方不明の仔羊を連れ戻すために朝でも晩でも、照っても降っても、岩でも山でも、谷でも山頂でも、彼ははぐれた仔羊を求めてあらゆる場所を探索し、必ず見つけ出すでしょう。仔羊が虎の口の中にいるなら、虎の歯を折って顎をこじ開け、仔羊を群れに戻すでしょう。羊飼いが狩りを始めるためにデリーに来たようです。
デリー郊外の森。ゴンドの「羊飼い」であるコマラム・ビーム(N.T. Rama Rao Jr.)が湖で水浴している。彼は頭から血を被る。自ら囮となって、ペッダナ(Makarand Deshpande)、ラチュー(Rahul Ramakrishna)、ジャング(Chatrapathi Sekhar)とともにオオカミを狩ろうとしていた。ジャングが動物の鳴き声を真似ると、血を被ったビームに引き寄せられてオオカミが姿を現わす。ビームは森の中を全速力で駆け抜ける。途中、想定外でトラが姿を現わす。オオカミを追い払ったトラはビームを追いかける。ビームはトラを予め仕掛けた罠に誘導し網に捕えるが、オオカミより大きく力の強いトラは簡単には大人しくならない。危うく襲われかけるが、薬草を浴びせかけて何とか仕留めることができた。
ビームはデリー市街に戻る。マッリを探すためにデリーに潜伏していたが、半年経っても何の手掛かりもつかめていなかった。ビームは「アクタル」と名乗って自動車修理工場で働いていた。職場に戻ると親方に仕事がたくさんあると声をかけられた。そこに女性を連れた大英帝国の兵士がバイクを引いてやって来る。エンジンがかからなくなった、ちゃんと修理したんだろうな。いくら蹴ってもまったくかからない。確認させて下さいとビームがバイクを見る。ちょっと手を加えるとエンジンがかかる。兵士の連れの女が笑う。女の前でプライドを傷つけられた兵士は激昂する。何か部品を外して置いて今取り付けただろ、二重請求するためにな! 兵士は鞭を取り出して何度もビームを打ち、蹴り付ける。ビームは揉め事を起こして身元が割れてはマッリ奪還が成就しないと一切抵抗せず、兵士にやられるがままになっていた。親方が彼のせいではないと訴え、連れの女も止めてと叫ぶ。ビームは何とか解放された。

 

1920年大英帝国支配下のインド。ゴンド族の少女マッリ(Twinkle Sharma)は歌と絵画の才能をインド総督夫人キャサリン・バクストン(Alison Doody)に気に入られ、インド総督スコット・バクストン(Ray Stevenson)に連れ去られる。ゴンド族のコマラム・ビーム(N.T. Rama Rao Jr.)は、ジャング(Chatrapathi Sekhar)、ペッダナ(Makarand Deshpande)、ラチュー(Rahul Ramakrishna)とともにマッリを奪還すべく総督公邸のあるデリーに潜伏していた。ニザーム藩王国藩王から特別顧問ヴェンカット・アヴァダニ(Rajeev Kanakala)を介してゴンド族の少女を返還するよう忠告された総督代理エドワード(Edward Sonnenblick)は、総督を付け狙う男がいると総督府で注意を喚起する。総督夫人は男を逮捕すれば特別捜査官に取り立てると警察官を鼓舞する。本国出身者でないために差別されながらも昇進の機会を常に窺っている野心家の警察官ラーマ・ラージュ(Ram Charan)は総督夫人の提案に飛びつく。ラーマは総督を狙う男は、総督を敵とする勢力に近付くだろうと当たりを付け、革命家の会合に潜入する。

実在のコムラム・ビームとアッルーリ・シータラーマ・ラージュをモデルとしつつ、超人的能力を宿した彼らをバディにして大暴れさせたフィクション。
ビームに容疑者、バイク、水、大地といった属性が与えられるのに対し、ラーマには警察官、馬、火、高所といった属性が与えられている。とりわけ水と火とは互いが打ち消し合う関係にある。2人は相手の素性を知らないまま、少年の危難を救うために協力して意気投合し、義兄弟となる。だが、お互いが追う者と追われる者との関係であったことが明らかになり、決裂する。
大英帝国による非道な支配を総督や総督夫人が体現する。共通の敵である大英帝国=総督ではなく、ビームとラーマがお互いを敵とする場面は、イギリスによる分断統治を象徴するものだ。
あらゆる工夫を凝らした見応えあるアクション・シーン、ユニークなダンス、帝国支配の残酷さを訴える虐待・拷問など、様々な要素を次から次へと繰り出し、3時間観客を引っ張り続ける力業に脱帽するしかない。