可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『日本のアートディレクション展 2022』

展覧会『日本のアートディレクション展 2022』を鑑賞しての備忘録
ギンザ・グラフィック・ギャラリー及びクリエイションギャラリーG8にて、2022年11月1日~30日。

東京アートディレクターズクラブ[ADC]に所属する82名のアートディレクター全員により審査される年次公募展「日本のアートディレクション展」。「2022」展では、2021年5月から2022年6月までに発表、使用、掲載された約6000点の応募作品から選出された受賞作品・優秀作品を紹介する。なお、ギンザ・グラフィック・ギャラリーではADC会員の作品を、クリエイションギャラリーG8では会員以外の作品を、それぞれ展示している。

ADCグランプリを受賞したのは、 大貫卓也の「HIROSHIMA APPEALS 2021」のポスターと関連制作物。死の灰に包まれた世界から白い鳩が現れる、ある種反転(暗転)した「スノードーム」をモティーフとしている。「スノードーム」を捉えた映像作品では原子爆弾の閃光「ピカ」を一瞬のホワイトアウトで挿入している。いずれ白い鳩が姿を見せるとの希望を蔵しているとは言え、「スノードーム」の中の死の灰は容易に降り注ぎ、何度でも全てを闇に閉ざしてしまう。歴史は繰り返す危険を訴えている。ロシアのウクライナ侵攻により核兵器の使用が憂慮される最中に時宜を得た受賞となった。ところで、中堅の広告代理店(!)を舞台にした映画『MONDAYS このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022)では、主人公たちの職場の窓に白い鳩が衝突するが、鳩の犠牲により彼らは同じ一週間が繰り返されている現実に気が付くことができる。そして、「鳩です」をキーワードにタイムループから脱することを企てる。「鳩です」とは言うまでも無く、鳩の死(death)である。平和(白い鳩)が失われて初めて、繰り返される不毛な戦いに気が付く。平和が失われるまでその価値に気付くことができないという構造は、死の灰の「スノードーム」に通じている。

ADC会員賞を受賞した三澤遥の「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」は、国立科学博物館の哺乳類を中心とした剥製を巡廻展示するためのセット。博物館の所蔵品を館外で展示する試みとしては、西野嘉章らの「モバイルミュージアム」の流れを汲んでいよう。ガラスケースではなくキャビネットに収納しているという点では「驚異の部屋」などと紹介される"Kunstkabinett"への先祖返りとも評し得る。標本には敢て解説を付さず、形態的な類似性などで直観的に標本を捉え、驚異をこそ味わわせ、自由な発想を引き起こすことが狙われている。

ADC賞を受賞した関本明子のレモンノキは、レモンを用いた菓子のグラフィック。棘のあるレモンの木の枝を幾何学的な線で螺旋状に表し、一目でその棘に引っ掛かってしまいそうな訴求力がある。同じく関本明子の手懸けた七條甘春堂のマークは、筆文字の「七」を飛び立つ鳥のようにデザインしたもので境界を越えて軽やかさが印象に残る。

浅葉克己による、バウハウスに関わったグンタ・シュテルツェル(Gunta Stölzl)のエピソードの紹介、渡邉良重による、目の粗い格子と大きな花々を遇ったAUDREYのパッケージなども印象に残った。