展覧会『クリスティアーネ・レーア「その瞬間に自らを留める」』を鑑賞しての備忘録
タグチファインアートにて、2022年10月8日~12月24日。
植物を用いた立体作品と、グラファイトを用いた単色のドローイング作品とで構成される、クリスティアーネ・レーア(Christiane Löhr)の個展(英題は"Fastening oneself in the moment")。
展示室の中央に設置された白い台に雑草を用いた立体作品が5つ設置されている。《楕円のボウルの形》(55mm×140mm×110mm)は、真っ直ぐに伸びる茎から小さな円形の葉が出ている(輪生の)草を底面が6角形になるよう台に穿たれた小さな穴に密に植え込んだ作品。草は赤紫色と黄土色の2色で紅葉する森のような印象。《楕円の立方体》(150mm×220mm×140mm)は、直立する茎から細い茎が出てそこに小さな掌状裂の葉が付いているものが、底面が楕円状になるように植えられたもの。薄い茶色をしている。主たる茎やそこ別れる細い茎は作品の内側に向くものが選ばれ、全体として中央上部に向かって窄まる形を成している。《四角錐の形》(250mm×440mm×440mm)は、2本の草をアーチ状になるように4つ、底面が四角形になるように植えたものを、内側の小さな組を囲むように外側に大きな組を配した作品。緑の褐色。アーチは作品の外側に向かって反っており、全体として大きな花のような形を成している。また、アーチは葉や細い茎が絡み合うだけでできており、乾燥した草の儚さと相俟って、手を繋いで軽やかに踊る姿――アンリ・マティス(Henri Matisse)の《ダンス(La Danse)》のような――を想起させる。《大きなドーム》(430mm×290mm×280mm)は《四角錐の形》と同じ草を7本円形に立て、中央頂部で触れ合わせることでピーマンのような立体とした作品。葉や茎が内側に向いたものだけが組み合わされている。《大きな二重のドーム》(620mm×600mm×600mm)も《四角錐の形》や《大きなドーム》と同じ草を用い、背丈の低い4本を中央頂部で組み合わせたドームを、背丈の高い4本の草で構成されたドームが覆う構造の作品。やはり葉や茎が内側に向いたものだけが選ばれてる。
中央の白い展示台を挟むように、壁面には《イガのボウル》(100mm×100mm×30mm)と《イガのフェルト》(150mm×140mm×10mm)が飾られている。《イガのボウル》は、タルトのような小さなリースの作品。棘のついた球状の小さな植物の実(?)を円状に組み合わせて作った縁の中に、同じ実(?)を敷き詰めている。《イガのフェルト》は灰色のフェルトの中に小さな草の実を入れ込んだ作品。
グラファイトを用いたモノクロームのドローイング作品は無題で、白い画面を枝のような線が縦断し、あるいは蔓のような線がくねる。伸びやかな線は画面の端で途切れるが、その切断により却って画面の外への広がりを感じさせる。
植物を用いた立体作品群、とりわけドームの作品は「幽し」という言葉が似つかわしい繊細さを持つ。しかしながら、その形状は主に幾何学的形態をとる。中でもドームが完全性や永遠性を象徴する。あくまでも彫刻である。素材となる植物の姿を留め置くのは、作家の主体性を記すためであろう。その点で、『その瞬間に自らを留める(Fastening oneself in the moment)』の「自ら(oneself)」とは、植物(themselves)であるとともに作家自身(myself)である両義的な意味を有する。否、その両義性こそが作品の特徴なのだろう。組み合わされているのみで接着されていないことは結合と分離を、展示室の台座に植え込まれた作品は彫刻でありながら解体が前提とされたインスタレーションであることは永続性と仮設性を表す。ドローイング作品では線の切断によって持続が示されていた。『その瞬間に自らを留める(Fastening oneself in the moment)』というタイトル自体、瞬間の中に(in the moment)永遠を見ている、両義的な性格を持つものであった。