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芸術鑑賞の備忘録

映画『Never Goin' Back ネバー・ゴーイン・バック』

映画『Never Goin' Back ネバー・ゴーイン・バック』を鑑賞しての備忘録
2018年製作のアメリカ映画。
86分。
監督・脚本は、オーガスティン・フリッゼル(Augustine Frizzell)。
撮影は、グレタ・ゾズラ(Greta Zozula)。
美術は、オリビア・ピーブルズ(Olivia Peebles)。
衣装は、アンネル・ブローダー(Annell Brodeur)。    。
編集は、コートニー・ウェア(Courtney Ware)とオーガスティン・フリッゼル(Augustine Frizzell)。
音楽は、サラ・ジャッフェ(Sarah Jaffe)。
原題は、"Never Goin' Back"。

 

アンジェラ(Maia Mitchell)がマットレスで眠るジェシー(Camila Morrone)の顔に向かって楽しそうに手を動かしている。ジェシー、起きて。今、何時? 寝過ごした? 全然、大丈夫。でも起きないと。すごくいいもの見せたいから。顔にペニスでも描いたんじゃ? そう。ペン貸して! ジェシーが起き上がるとアンジェラの上に乗りかかる。顔に大きな太ったペニスを描いてやる。ペンは? 止めてよ、サプライズがあるから。ありえない。これまでで最高のやつ。すごいサプライズ? めちゃめちゃ最高。だからどいてくれる。ブランドン(Kyle Mooney)とこにあるから。意味なく起こしたんなら殺すよ。
アンジェラはジェシーを伴って、一緒に家を借りているジェシーの兄ダスティン(Joel Allen)の部屋へ。あんたの兄貴がこんな奴と部屋をシェアしてるなんて信じられない。私らだってあんな奴らと家をシェアしてるなんて信じられないけど。アンジェラはダスティンの同居人ブランドンのデスクに置かれたPCを起ち上げると、ブラウザにはポルノが映し出される。まあ、ブランドンは変態だよね。少なくともレズものは見てるね。何これ! 何? 彼女おしっこしてる。私にはかけないでよ。実はおしっこしたいんだけど。トイレ遠いし。やめてよアンジェラ! 何を見せたいわけ。目を閉じて。アンジェラがPCを操作する。いいよ目を開けて。海岸の景色がディスプレイに表示されていた。すごく綺麗。何処なの? あんたが来週17歳になる場所だよ。何? ネットでお買い得になってたから思い切って買っちゃった。ガルベストンに行くんだよ、あんたの誕生日に。サプライズ! 本当に? 見てよ、泊まるのここだよ。プールだっておっきな浴槽もある。しかもビーチに面してる。すごいよ、アンジェラ。でもさ、どうやったの? お金の出所は? まあまあそう興奮しないで、私らの家賃を使ったの。でもね、ロデリック(Marcus M. Mauldin)にはもう話して今週は目一杯シフト入れてもらったから、出かける前にちゃんと稼げるよ。家賃を使っちゃったの? 支払いの1週間前なのに? でも仕事入れてるから、家賃はどうにかなるよ。信じらんない、なんで相談してくれなかったの? 驚かせたかったから。だって、ジェシー、16歳の誕生日は酷かったじゃん。でしょ? それに出会った頃からずっとビーチに行きたいって言ってたからさ。今週念願が叶うってわけ。あんたが行きたくないから行かないよ。まだ2時間はキャンセルできるしさ。でもキャンセルするべきじゃないと思うよ、もう支払ったし、シフトは入れたし。この景色を見てよ。あんたはこの景色にふさわしいって。私らはこの景色にふさわしいって。それぞれシフト10回? それでどうにかなる。で、行きたいの? 分かった、行きたい。本当に? 私らで行きたいからさ。絶対。私ら、このビーチにふさわしいよね。そうだよ。私らめちゃくちゃ働いてるんだ。ビーチに行きたいなら、ビーチに行くんだ。2人は部屋を出る。ドアには、俺はいつも裸だからナニを見たくなければ入るなとの貼り紙があった。
アンジェラとジェシーは自分たちの部屋でレストランのウェイトレスのユニフォームに着替える。鼻からドラッグを吸うと、家を出る。そこへゴミをそうとしていた隣家の女性(Liz Cardenas)が2人に声をかける。ねえ、あんたち! どっちかが芝を刈ってくれないと。たぶん自分のを刈らないとダメなんじゃない。市の職員をあんたたちに行かせるよ。市の職員を私たちでイかせるの? 2人は隣人を性的なジャスチャーで揶揄うと、下品な娘たちだと彼女は憤慨するが、構わず2人はそのままバス停に向かって歩いてく。

 

アンジェラ(Maia Mitchell)とジェシー(Camila Morrone)は同居して、店長のレストランでウェイトレスの仕事をしながらかつかつの生活を送っている。2人の部屋のある家には、ジェシーの兄ダスティン(Joel Allen)がファストフード店に勤めるブランドン(Kyle Mooney)と同居する部屋もある。2人に好色な目を向けるブランドンは何か理由を託けては2人に接触してくる。ダスティンはドラッグの売人などで日銭を稼いでいて、彼の友人ライアン(Matthew Holcomb)だけでなく、怪しい連中がよく部屋を出入りしている。アンジェラとジェシーもよくドラッグをキメている。そんな2人の職務態度が良いはずもないが、レストランの店長ロデリック(Marcus M. Mauldin)はいつも2人の持ち前の明るさを買って多めに見ている。それを生真面目な受付係のクリスタル(Atheena Frizzell)は気に入らない。アンジェラはジェシーの17歳の誕生日をジェシーがずっと行きたがっていたビーチで過そうと、ガルベストン旅行をサプライズでプレゼントする。だがその費用はアンジェラが2人の部屋の家賃を流用したもので、家賃はレストランの仕事を増やして賄うという計画だった。部屋に住めなくなって祖父母と住む羽目になるのだけは避けたいジェシーは躊躇うが、アンジェラの熱心な誘いに乗る。翌朝、ダスティンの友人トニー(Kendal Smith)が少年(Aristotle Abraham II)とともに家の扉を蹴破って侵入して来た。トニーはダスティンが盗んだ金の代わりとなるものを持って行くと入って、古いテレビセットを運び出した。隣人(Liz Cardenas)の通報で駆け付けた警察官のパディン・フェイス(Max Hartman)とクレイグ(Craig Cole)は、被害確認の最中、アンジェラとジェシーの部屋でドラッグを発見する。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

ハイティーンのアンジェラとジェシーの刹那的な生き方を一貫してコミカルに描いている。彼女たちに向けられる非難のあるいは卑猥な眼差し、または彼女たちのセリフの端々から窺える苦境を、2人の明るさと若さとで後景に追いやられている。
ジェシーが便秘になってしまうことは、彼女(たち)の貧困その他の苦境のメタファーとなっている。便秘の解消はある偶発的な出来事によってなされるが(なお、吐瀉の意味については、TVドラマ『エルピス-希望、あるいは災い-』での表現も参考になる)、それは一時的な解決にしかならず――ドラッグのもたらした幻覚と解釈する余地も十分にある映像表現が用いられている――、おそらくは同じ問題が再発する恐れが高い。
アンジェラとジェシーのバディ・ムーヴィーであり、2人が心を動かされるような男性が一切登場しない。2人は問題解決を男性に――少なくとも救ってもうという意味では――期待してはいない。その背後には男性に体を売らないとの固い意志がある。露出の多い服は暑い気候に対処するためであって男を誘うためではない。

シリアスな作品ではあるが、シングルマザーとその娘とを描いた映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法(The Florida Project)』(2017)をお薦めしたい。