映画『ブラックアダム』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のアメリカ映画。
124分。
監督は、ジャウム・コレット=セラ(Jaume Collet-Serra)。
キャラクター創造は、ビル・パーカー(Bill Parker)とC・C・ベック(C.C. Beck)。
脚本は、アダム・スティキエル(Adam Sztykiel)、ローリー・ヘインズ(Rory Haines)、ソフラブ・ノシルバン(Sohrab Noshirvani)。
撮影は、ローレンス・シャー(Lawrence Sher)。
美術は、トム・マイヤー(Tom Meyer)。
衣装は、カート&バート(Kurt and Bart)。
編集は、マイク・セイル(Michael L. Sale)とジョン・リー(John Lee)。
音楽は、ローン・バルフェ(Lorne Balfe)。
原題は、"Black Adam"。
ローマ帝国よりも、バビロニアよりも、エジプトの古王国よりも前に、カーンダックが存在した。
カーンダック、紀元前2600年。
史上初の民主政体であるカーンダックは、文明の中心地として何世紀にも渡り繁栄して来た。ところがアクトン王は軍隊を使って権力を掌握すると専制政治を敷いた。王には遙かに邪な狙いがあった。邪悪な魔術に取り憑かれた王は、サバックの王冠を手に入れようとしていたのだ。古代世界の悪魔の力を注入すれば、王冠はアクトン王を無敵にするだろう。王冠の制作には、カーンダックでしか入手できない魔術的性質を有する稀少鉱物エタニウムが必要だった。王は支配下にある民衆を奴隷として採掘に使役した。危機に瀕していたカーンダックで人々が求めたものは英雄だった。人々に期待を抱かせる者。たとえあらゆる希望が失われたような時でさえも。
炎天下で露天掘りに従事する多くの奴隷たち。ジャウ(Chaim Jeraffi)が青く煌めくエタニウムを掘り出す。それに気付いた周囲の男たちがエタニウムを手にしようとジャウに襲いかかる。少年ハールー(Jalon Christian)が叫ぶ。彼を放して! どうして内輪揉めするの? 本当の敵は誰か思い出してよ。ハールーはジャウを連れて奴隷監督(A. Manuel 'Manny' Miranda)の下へ向かう。見せてみろ。奴隷監督は手に取ったエタニウムを陽に翳す。王はお喜びだろう。王は褒美をくれるよね。私は見返りが欲しい。ジャウは奴隷監督に手招きされる。奴隷監督は男を絶壁の際に立たせると、見返りが欲しいんだなと言ってジャウの腹に短剣を突き刺すと崖から突き落とす。お前も王の見返りを求めるのか? そこへハールーの父親テス(Benjamin Patterson)が飛んで来る。いいえ、息子は王の慈悲を求めております。父親は少年を奴隷監督の前から連れ出す。いつもお前を守ってやる訳にはいかない。守って欲しくなんかない。自由が欲しい。力を合わせれば、王だって倒せるよ。誰かに英雄になってもらおう。墓場は英雄で埋まってるんだ。夢見るのは止めて仕事に戻れ。父は息子に言い残して立ち去る。ハールーは断崖の上から賦役に従事する人々を見下ろす。多くの英雄がいれば自由は夢じゃない! 突然走り出したハールーは監督官からエタニウムを奪うと、自由だと触れ回りながら鉱山を駆け抜ける。ハールーは両腕を持ち上げ、エタニウムを人々に示す。少年に気が付いた男たちは、両手を掲げると、少年に対する連帯を示すように、カーンダックを象徴する三角形を手で作る。アクトン王はハールーの反抗を放っておけば瞬く間に反乱になりかねないと分かっていた。そこで王はハールーの処刑を命じる。宮殿の前に引っ立てられたハールーは衆人環視の前で斬首されることになる。群衆が見詰める中、刑吏の重い刀がハールーの首を目掛けて振り下ろされる。
人々は殉教者を得るのだと思ったが、そうではなく、奇蹟を手に入れた。
刑吏の振り下ろした刀は空を切った。少年の姿は消えていた。ハールーは闇の中にいるのに気が付く。見上げるとエタニウムの塊が浮かび、足下には文字を刻んだ石板が嵌められていた。地球を魔術により守護する魔術師たちの会合の場であった。松明を掲げた魔術師たちが少年の周囲に集まる。お前は選ばれた。魔術師たちは世界の調和を取り戻そうと、古代の神々の能力――シューの持久力、ヘルーの素早さ、エイモンの強さ、ズーティーの智慧、アーテンの力、ミーヘンの勇気――を少年に賦与する。声を揃えシャザームと唱えると、青い稲妻が少年に落ちる。
サバックの王冠は既に完成していた。英雄が宮殿に到着したときには、アクトン王は既に王冠を戴き、悪魔の力を召喚していた。英雄と王との戦いで宮殿は崩れ去り、勇者が勝利を収めた。魔術師たちはサバックの王冠を二度と人々の手に渡らないように秘匿した。そして、英雄は消息を絶った。
カーンダック、現在。
今日、カーンダックは国際的な傭兵であるインターギャングによって占拠されている。しかし、伝説によれば、カーンダックがどうしても必要なときには英雄が人々に自由を取り戻すために戻ってくるという。長い長い時が経過した。
夜。密集する建物の上空をインターギャングの航空艇が飛び交う。通りには車がひしめく。赤いフードを被ったエイモン(Bodhi Sabongui)がスケートボードで車に掴まって移動し、車道から歩道へ、階段へ、と自在に街を抜けて行く。インターギャングが設置した北シルータの検問所では、白いバンを運転するカリーム(Mohammed Amer)が兵士から身分証の提示を求められていた。カリームの隣にはサミール(James Cusati-Moyer)とイシュメール(Marwan Kenzari)が坐っている。3つ揃ってるだろ? 写真で判断しないでくれよ、彼女に振られた後のやつだから。兵士は身分証を確認すると、バンの3人の顔を懐中電灯で照らす。後部ドアを開けろ、中を見る。イシュメールは懐の銃に手を伸ばす。ああ、ロックを解除したよ。古いテレビを積んでるんだ。電気技師だからさ。バンの脇をスケートボードで通り抜けようとしてエイモンは兵士に行く手を遮られ、転ぶ。リュックからアメコミ誌が地面に飛び出す。前方を確認しろ、規則は分かってるだろう、並べ。頼むよ、毎日会ってるじゃん。だから毎日車輪があれば車両扱いだと言ってる。あんたは仲間じゃ無い。それは悲しいな、失せろ。やだね。新帝国主義の手先ども。地球の裏からやって来て資源を掠め取る、神聖な土地を掘り返して水を汚し伝統を押しつぶす、おまけに1日中並ばせる。兵士は警棒を取り出す。カリームに言っていいかと声を掛けられて気を取られた一瞬の隙にエイモンは検問を抜ける。兵士は行けと行ってバンを叩く。兵士が腕にしていたギアに手配者の情報が表示される。
バンが進むと、もう大丈夫だとカリームが後部座席に声をかける。姿を見せたのは手配中の女性アドリアナ(Sarah Shahi)。カーダダックはもう安全じゃないな。王冠を手に入れるのが先決よ。インターギャングに自宅を監視されてるんだ。大学の職を捨てて4度も引っ越したわ。でも故国は捨てない。俺が言いたいのは奴らの先回りはできないってこと。状況が改善するのを待ってはいられないわ。奴らが見付けてしまうもの。走行するバンに掴まったエイモンがバンの窓を叩く。何してるの? 一緒に行きたい。危険すぎるから関わらないで。あいつらを倒すのを手伝いたい。英雄になりたいの? そう。家に帰って宿題をしなさい。いつかお前の番が来る、でも今じゃないの。エイモンが手を離し、バンから離れていった。バンは郊外へ向かう。
紀元前2600年。史上初の民主国家カーンダックは、文明の中心地として何世紀にも渡り繁栄して来たが、アクトン王により武力制圧されたその専制支配に服した。王の狙いはカーンダックに眠る魔術的性質を有する稀少鉱物エタニウムで、王はエタニウムを用いて無敵の力を与えるサバックの王冠を制作することを企てた。エタニウムを採掘したジャウ(Chaim Jeraffi)が目の前で殺されるのを目撃した少年ハールー(Jalon Christian)は、奴隷として酷使されるカーンダックの人々に解放を訴える。アクトン王はハールーを捕え処刑させるが、ハールーは斬首される瞬間に魔術師たちの力によって救済される。魔術師たちは古代の神々の能力を少年に賦与し、英雄にする。既にアクトン王はサバックの王冠を完成させ悪魔の力を身に付けていたが、英雄は宮殿を破壊し王を倒す。魔術師たちはサバックの王冠を秘匿し、英雄は消息を絶った。
現在のカーンダックは国際的な傭兵であるインターギャングによって占拠されていた。夫を殺された考古学者のアドリアナ(Sarah Shahi)はカーンダックを解放すべく、古文書を解読してサバックの王冠を手に入れることを目論んでいた。アドリアナは電気技師の兄カリーム(Mohammed Amer)を運転を頼み、協力者のサミール(James Cusati-Moyer)とイシュメール(Marwan Kenzari)とともに王冠が眠るとされる鉱山跡に向かう。アドリアナの解析は正確で、坑道には究極の力を秘匿したとの碑文があった。探索を続けると、かつてカーンダックを解放した英雄の墓があり、王冠が浮かんでいた。アドリアナは王冠を手に入れるが、インターギャングに襲われる。彼らはアドリアナたちに王冠を発見させようと、彼女たちを待ち伏せし見張っていたのだ。カリームらを人質にされたアドリアナは降参し、王冠を奪われる。銃を向けられたアドリアナは墓の碑文を読み上げる。死を避けられぬ存在の中で最強、神の中の神、6人の父子の長老たち…シャザーム。稲妻が落ちる。黒いローブを纏った人物(Dwayne Johnson)が蹲っていた。
5000年間墓に封じられていたテス・アダム(Dwayne Johnson)が召喚され発揮する凄まじい能力の描写が素晴らしい。しかしあまりに大きすぎる能力を制御することは容易ではない。それは出落ちとなって物語自体をも破壊する可能性を秘めている。