可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『ゴンサロ・チリーダ展』

展覧会『ゴンサロ・チリーダ展』を鑑賞しての備忘録
インスティトゥト・セルバンテス東京にて、2022年10月29日~2023年2月28日(※当初会期1月14日までを延長)。

絵画34点、版画8点、写真資料、作家の紹介映像"La idea dela norte"で構成される、ゴンサロ・チリーダ(Gonzalo Chillida)(1926-2008)の絵画展。

砂浜海岸を描いた「砂(Arenas)」と題された作品が多くを占めている。同題の出展作品中、最初期作品である1964年制作の《砂(Arenas)》は、縦長の画面に砂浜海岸を描いたものである。画面下側3分の2程度に黄土色の砂浜を表わしているが、その上側の青灰色の部分は打ち寄せた波によって一時的に海水に覆われた浜であろう。すべては霞むように曖昧で、砂浜と海との関係も判然としたものではない。1973年に描かれた《砂Ⅵ(Arenas Ⅵ)》・《砂Ⅶ(Arenas Ⅶ)》・《砂Ⅷ(Arenas Ⅷ)》では、いずれも海に注ぐ水が砂浜に作る筋を俯瞰的に描き出している。「砂」シリーズに先行する1960年の《岬(Puntas)》と題された作品の1つでは、砂浜海岸から海を眺めた景観を描き、画面上部から、左右それぞれに湾を囲む突端(砂嘴ないし堤防)、穏やかな海面と砂浜に打ち寄せる白い波、そして、画面の3分の2近くを占める砂浜と海に流れ込む水が作った模様で構成されている。本展のメインヴィジュアルには1950年の《形状(Formas)》が採用されているが、その黄土色の画面に配された黒や灰色の形は、海へ注ぐ水が形成する地形を抽象化した作品に見える。
「砂」シリーズは砂浜海岸を描き出しており、海面を俯瞰的に描き出した海(Marina)と題された作品群と両輪となっている。砂は透明で捉えどころの無い水を描くための足掛かりなのかもしれない。1983年の《砂(Arenas)》にはくすんだオレンジ色で統一された画面の中央を、明るい(白味を帯びた)オレンジ色で等高線のような密集した線がジグザグに横断している。それが河岸段丘のような姿は砂浜に残された水の刻印であり、不在の水の姿をこそ描いていると言えよう。
1972年の《ウルグル(Urgull)》は、湾を隔てて対岸に臨む、要塞が築かれた岬モンテ・ウルグルを描き出した作品である。数段の防壁によって取り巻かれた丘の裾には建物が密集している。その家並を精緻に描きつつ、とりわけその上方は靄に包まれたように曖昧に表わされている。この作品もまた海景の1種であり、海とともに靄という水の効果を捉えた作品と解される。2005年の縦長の画面の《海(Marina)》では、海面を画面下部の6分の1程度に抑え、その上に夕陽によってピンクに輝く雲を描き出している。雲の姿を通して水を捉えている。
やはり作家にとっては水こそが主題である。砂のシリーズは砂を用いて水を描くという点で、枯山水に通じるものがあるのではないか。