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芸術鑑賞の備忘録

映画『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』

映画『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』を鑑賞しての備忘録
2022年製作の韓国映画
109分。
監督は、パク・デミン(박대민)。
脚本は、パク・デミン(박대민)、キム・ボンソ(김봉서)、パク・ドンヒ(박동희)。
撮影は、ホン・ジェシク(홍재식)。
照明は、キム・ジェグン(김재근)。
美術は、イ・テフン(이태훈)。
衣装は、チョ・サンギョン(조상경)
編集は、キム・ソンミン(김선민)。
音楽は、ファン・サンジュン(황상준)。
原題は、"특송"。

 

プサンの警察署。廊下のベンチに腰掛けて待つ人たち。ペクカン産業、どうぞ。チャン・ウナ(박소담)が受付で廃車の引き取りの書類に署名する。今回は引き取らない方がいいんじゃないか? 警察官(박인수)が助言する。少しは稼げるでしょ? ウナはキーを受け取ると、駐車場に向かい、ガラスが割れ、血の付着した車に乗り込む。かかりにくいエンジンを何とか始動させると、バックで急発進。ボロボロの車が滑らかに警察署を出て坂道を下っていく。ウナの車がクァンアン大橋を渡る。
ペクカン産業。事務所で社長のペク・カンチョル(김의성)が電話している。それならタクシーを呼べばいいでしょ。電話する相手を間違ってますよ。…それなら全くの間違いというわけではないようですね。目的地はどこになります? 社長が地図を取り出して机に拡げる。うちは特送です。郵便でも送れないものでもお届けしますよ。どんな手段を使ってもです。
ウナの車がペクカン産業の敷地に到着する。それに気付いたアシフ(한현민)が駆け付ける。ボルボの940か。興奮するアシフに鍵を渡して歩き出す。釣りをしている2人に釣果を尋ね、通りがかったフォークリフトに乗り込み事務所へ向かう。
ウナが事務所に入ると、社長は電話中だった。緊急事態ですか。うちはただの運送会社ですよ。配送前にお客様ご自身で対処して頂かないと。配送中ならドライヴァーが最後まで責任を負いますから、ご心配なく。ウナは冷蔵庫を開けるが、自分の買ったビールが無い。勝手にビールを飲まないでくれる! 社長は電話中だから静かにとジェスチャーして話を続ける。机の上に置いてあったビールをウナが摑む。飲酒運転は駄目だろ。今日は約束があるの。久々に社長が運転してよ。ウナが飲もうとしたビールを奪って社長が飲む。約束だと? まずは約束する相手を作らなきゃな。今晩は特送がある。夜勤手当で15%増し。5%。15%。いいだろう。社長がメモを渡す。30分で市街から港へ運ぶ内容だった。
21時。ウナが車をトップホテルの傍へ。すぐに2人の怪しげな男たちが出て来る。いかにも追われていますといった怪しげな動きは誰もいない通りで悪目立ちする。兄貴、この車です。子分(권혁범)がドアを開けようとするがロックがかかっている。キム・ジョンテ(조희봉)が車の中を覗き込む。ウナがスマートフォン依頼人の顔を確認してロックを解除。子分が転げる。キムはドライヴァーが女だと気付くと乗り込まずに子分を蹴り上げる。女じゃないか。首尾良くいけんのか? 船が出ちまいますよ、兄貴。仕方ない。ようやく2人は車に乗り込むが、その姿を追手に目撃されていた。ちゃんとやれるんだろうな。キムはウナに念を押す。シートベルトの着用を。ベルトはこれだよ。キムは自分のパンツのベルトを見せる。その場合、罰金6万ウォンが課されますよ。急発進で後方へ。つんのめる2人。追手もいきなりの発射に動揺する。交差点に進入し急ハンドルを切る。キムは慌ててシートヴェルトを締め、アシストグリップを握りしめる。トンネルを抜けるとすぐさま反対車線へラバーポールを突き抜けUターン。撒いたはずが追手の車両は増えている。ウナの車両の前に突進する車。停まれ! ウナはアイスコーヒーを飲みながら平然と片手でハンドルを握る。狭い住宅地の道路へ。ウナは縦列駐車の隙間に割り込んで停車させたり、静かにバックして坂道を下ったり、建設現場の足場を倒して道を塞ぐ。車幅ギリギリの道を猛スピードで抜ける。遮断機が降りた踏切を越えようとするが貨物列車の走行で断念。すぐさま線路脇の道を走行し、次の踏切で貨物列車の前を横断して、遂に追手の車から逃れることに成功する。
ウナがナンバープレートを取り替えていると、キムが時間通りだと感心しきりに姿を現わす。報酬を確認してくれ。紙袋を渡されたウナが中味を見る。キムは別に金を差し出す。チップ? チップじゃない。キムは名刺を示す。俺の下で働かないか。ワイン業界以外であんたみたいな娘と働きたいと思ったことは無かったけどよ。光栄だろ? ウナは金だけ受け取ると、キムの胸のポケットに名刺を刺して立ち去る。

 

チャン・ウナ(박소담)は、自動車リサイクル会社「ペクカン産業」課長という肩書で、実はペク・カンチョル(김의성)社長の指示により特殊な荷物の配送を請け負う凄腕のドライヴァー。プロ野球八百長で逮捕された選手の供述から、元プロ野球選手でタレントのキム・ドゥシク(연우진)が野球賭博のブローカーであることが発覚。刑事として警察署でチーム長を務めながら、ギャングのボスという裏の顔を持つチョ・ギョンピル(송새벽)は、ボディガードのウ・シルチャン(오륭)を伴って、野球賭博のウェブサイトを任せていたサン代表(윤대열)を訪ねるが、ドゥシクが売上金を預けた貸金庫の鍵を持ち出した後だった。ドゥシクは息子のソウォン(정현준)とともに高飛びするため、特送を依頼する。

(以下では、冒頭以外の内容についても触れる。)

冒頭、女に運転ができるのかと馬鹿にするキム・ジョンテを乗せたチャン・ウナが、超絶的な運転技術でジョンテに部下に欲しいと思わせる展開は、ジョンテのコメディアンぶりで、クールなウナを浮かび上がらせる。
一癖も二癖もあるペク・カンチョルとウナとのやり取りは、コミカルに擬似的な父娘関係の絆を伝える。
暴力に見境の無いウ・シルチャンを使いこなす、チョ・ギョンピルの悪辣さはヴィランとして素晴らしい。
国家情報院で脱北者の管理に当たるハン・ミヨン(염혜란)はなかなかの遣手と見えたが、もう1つ活躍の場が無く、残念。続編への布石を打っているのだろうか。それに関連して、ウナが脱北者であることも、彼女に身寄りがなくなってしまった設定以上には、活かされていなかった。
社長が網で肉を焼いているシーンは何だったのだろうか(様々なバックグラウンドの人がプサンで生活していることを示すため?)。
裏社会の抗争に巻き込まれていくドライヴァーを描くのは、『ドライヴ』(2011) や『ベイビー・ドライバー(Baby Driver)』(2017)。ちょっと変化球では『運び屋(The Mule)』(2018)。
カーアクションではないが、近年の日本映画では、寡黙で優れた運転技術を持つ女性ドライヴァーが重要な役割を担う『ドライブ・マイ・カー』(2021)がヒットした。そして、『ちょっと思い出しただけ』(2022)も味わい深い。