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芸術鑑賞の備忘録

映画『ヒトラーのための虐殺会議』

映画『ヒトラーのための虐殺会議』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のドイツ映画。
112分。
監督は、マッティ・ゲショネック(Matti Geschonneck)。
脚本は、マグヌス・ファットロット(Magnus Vattrodt)とパウル・モンメルツ(Paul Mommertz)。
撮影は、テオ・ビールケンズ(Theo Bierkens)。
美術は、ベルント・レペル(Bernd Lepel)。
衣装は、エスター・バルツ(Esther Walz)。
編集は、ディルク・グラウ(Dirk Grau)。
原題は、"Die Wannseekonferenz"。

 

第二次世界大戦下のドイツ。ユダヤ人に対する迫害と殺害が長きに渡り行われてきた。1942年1月20日。親衛隊の代表たちがナチ党や官僚たちと会合するためにベルリン南西の大ヴァン湖畔の邸宅に集まった。朝食付きの会議を主催したのは国家保安部長官ラインハルト・ハイドリヒ(Philipp Hochmair)。議題は文字通り、ユダヤ人問題の最終的解決であった。
薄暗い広間では、アドルフ・アイヒマン(Johannes Allmayer)がテーブルに会議出席者の名札を座席の前にセットして廻る。会議で書記を務めるアイヒマンの部下のインゲルク・ヴェルレマン(Lilli Fichtner)がメモ帳と鉛筆を置いて歩く。
1台の車が到着する。親衛隊中将ハインリヒ・ミュラー(Jakob Diehl)と親衛隊准将のカール・エバーハルト・シェーンガルト(Maximilian Brückner)が車を降りる。ミュラーが出迎えの職員に確認すると、既に到着しているのは、法務省次官ローラント・フライスラー(Arnd Klawitter)、四ヵ年計画庁次官エーリッヒ・ノイマン(Matthias Bundschuh)、外務省次官補マルティン・ルター(Simon Schwarz)の3人だった。ハイドリヒ長官が到着したら知らせてくれ。アイヒマンは? 会議室です。紳士たちを楽しませてやってくれとシェーンガルトに言い置いてミュラーは会議室へ向かう。
アイヒマン。おはようございます、中将。非常にきっちりやっているな。ほぼ準備は整いました。議長席にハイドリヒだな? その右隣をご用意しました。左隣にはオットー・ホーフマン中将(Markus Schleinzer)です。ホーフマンは気に入るだろう。こちら側には東部占領地域省の面々か。次官のアルフレート・マイヤー(Peter Jordan)、局長のゲオルク・ライプブラント(Rafael Stachowiak)、それにポーランド総督府次官のヨーゼフ・ビューラー(Sascha Nathan)です。マイヤーを少し遠ざけよう。ミュラーが名札を置き換える。それから? 親衛隊准将のカール・エバーハルト・シェーンガルトと親衛隊少佐のルドルフ・ランゲ(Frederic Linkemann)です。良し。それで向かいに政府の面々だな。その通りです。お前はどこに? ヴェルレマン女史の隣に。手続的な問題を処理できます。ミュラーがヴェルレマン女史に謝意を伝える。何か違うかな? 全ての会議をここで開催できますね。アイヒマン氏の仕事場は気に入らないのかな? そうは申しておりません。職場の雰囲気を何とかしたまえ、アイヒマン。ところでテレージェンシュタットのユダヤ人ゲットーはどうだったかな? 非常に有意義でした。昨晩帰還しました。期待通りか? 新しいベッドは極めて機能的です。
応接室。早くに到着したフライスラー、ノイマンマルティン・ルターが珈琲を飲みながら雑談している。シェーンガルトはミュラーの指示で顔を出したが、会話には加わらない。モルダースが墜落死したのに続いて、ライヒェナウ元帥が斃れるとは。喪服をクリーニングに出したばかりなのに、また国葬とはね。これまでにない損失だ。元帥は脳卒中だっとか。ウクライナの森の奥でですよ。何をしていたんですか? ランニングです。零下40度でも毎朝、宿舎周辺を。零下40度をしてもライヒェナウ元帥を止められないのか。モスクワの前線の兵士たちを思うとね…。ロシア兵だから温かいってことはないさ。イースターまでにはモスクワは落ちるでしょう。そうですよね、シェーンガルト博士? もちろん。失礼します。
シェーンガルト准将は屋外で1人湖を眺めながら煙草を吸っていた親衛隊少佐のルドルフ・ランゲに気付き、彼のもとへ。ラトビアじゃなかったのか? シュターレッカー少将の代理です。順調だな。会議はどうも苦手で。馴れるさ。どこに泊まるんだ? ここです、2階の端の部屋に。ユダヤ人が次から次へと送られてくるだろう? 昨日も900。どこに収容するんだ、リガか、それともゲットーか? 森の中をちょっと歩かせて、放置しました。
首相官房局長フリードリヒ・ヴィルヘルム・クリツィンガー(Thomas Loibl)が到着。ナチ党官房局長ゲルハルト・クロプファー(Fabian Busch)が出迎える。発言にはご注意下さい。ゲシュタポが見張っていますから。ミュラーが顔を見せ、クロプファーに心配は無用だと告げる。親衛隊の仕事場がこんなところにあるとは、と驚くクリツィンガー。製造業者の別荘ですよ。アーリア化ですか? この建物については違います。ミュラーはハイドリヒが到着したと報告を受ける。

 

第二次世界大戦中の1942年1月20日、国家保安部長官兼ベーメン・メーレン保護領総督代理のラインハルト・ハイドリヒ親衛隊大将(Philipp Hochmair)が、ユダヤ人問題の最終的解決について話し合うため、ベルリン南西の大ヴァン湖畔の邸宅にナチ党や政府の要人を集めた。ハイドリヒはヘルマン・ゲーリング元帥からの指示であることを強調し、ドイツの支配地域や友好国を含めヨーロッパにおけるユダヤ人1,100万人を抹殺する方策を検討すると告げる。親衛隊中佐アドルフ・アイヒマン(Johannes Allmayer)がハイドリヒの計画の実現可能性を裏付けようと具体策をを提示する。親衛隊の連中に異論は無いが、ハインリヒ・ミュラー中将(Jakob Diehl)とオットー・ホーフマン中将(Markus Schleinzer)とはライヴァル関係にあり、会議中も暗闘している。ポーランド総督府長官の代理で出席した次官ヨーゼフ・ビューラー(Sascha Nathan)は既に多数のユダヤ人を収容・管理している状況で、さらなる負担の増大を押し付けられては自分の立場が危ういと保身に汲々とする。内務省次官ヴィルヘルム・シュトゥッカート(Godehard Giese)は法の適正な運用が無用の反乱を防ぐと訴え、首相官房局長フリードリヒ・ヴィルヘルム・クリツィンガー(Thomas Loibl)は計画の途方もなさを数字で証明する。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

会議参加者たちは、ユダヤ人をいかに効率的にゲットーや収容所に押し込め、女性や子供、先の大戦でドイツのために戦った兵士も含めて餓死よりも人道的だと殺害する、その方途について話し合っている。彼らが雑談で話題にする宿泊先や子供の誕生などとの対照によって、ジェノサイドと(戦時ではあるが)日常とがシームレスに繋がっていることが際立つ。ハイドリヒが柔和な人物に造形されていたのもその効果を狙ってのことではないか(なお、ハイドリヒの冷徹さは、『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦(Anthropoid)』(2016)や『ナチス第三の男(The Man with the Iron Heart)』(2017)で描かれている)。
内務官僚によって開陳される法律論は、ハイドリヒの計画に待ったをかけるが、飽くまでも法適用の平等性であって、ユダヤ人殺害自体の是非は問題とされない。ユダヤ人殺戮についての懸念も、殺害を実行するドイツ人の精神に対する影響に対してであり、ジェノサイドを否定するものではない。
ユダヤ人の殺戮に殺虫剤が予想外の効果を上げたことが話題となるが、人種という観念によって人が人として見えなくなる。境界線の恐ろしさ。
本作品出演者の出演作としてお薦めは、Fabian Busch出演の『帰ってきたヒトラー(Er ist wieder da)』(2015)、Thomas Loibl出演の『ありがとう、トニ・エルドマン(Toni Erdmann)』(2016)、Godehard Giese出演の『未来を乗り換えた男(Transit)』(2018)、Johannes Allmayer出演の『100日間のシンプルライフ(100 Dinge)』(2018)、Sascha Nathan出演の『希望の灯り(In den Gängen)』(2018)、Rafael Stachowiak出演作『水を抱く女(Undine)』(2020)など。