可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『初春を祝う 七福うさぎがやってくる!』

展覧会『初春を祝う 七福うさぎがやってくる!』
静嘉堂文庫美術館にて、2023年1月2日~2月4日。

卯年生まれの岩﨑小彌太の還暦祝いに孝子夫人が制作させた兎の冠を戴く総勢58体の御所人形を中心に、吉祥の絵画や工芸品を展観する企画。展示室ごとに1章を割り当て、「新春・日の出」(展示室1)(2点の絵画)、「七福うさぎがやってきた―小彌太還暦の祝い」(展示室2)(58体の御所人形と5点の絵画・工芸品)、「うさぎと新春の美術」(展示室3)(33点の絵画・工芸品)、「七福神と初夢」(展示室4)(18件の絵画・工芸品)の4章(60件)で構成される。

「第1章:新春・日の出」では、横山大観《日之出》と滝和亭《松に鵲・梅竹に鳩図屏風》の2点を紹介。《日之出》は霧で霞む山谷を墨による朦朧体で表わし、右上のスペースに金雲と赤い円で太陽を表わす。《松に鵲・梅竹に鳩図屏風》は50~60cmの高さに設置され、右隻の松の根元は表わされていないため、松を見上げる形になる一方、左隻の梅は梅の樹冠を描いているため、右隻との関係で、見下ろすような感覚を受ける。内国博覧会に出展を重ねたという滝和亭の、展覧会場での屏風の構想が看取される。

「第2章:七福うさぎがやってきた―小彌太還暦の祝い」の展示室2の壁面には、父・岩崎彌之助(1851-1908)の創設した静嘉堂文庫を発展させた岩﨑小彌太(1879~1945)と妻孝子の還暦祝いの際の写真(孝子の着物の裾には兎が遇われている)が飾られている。孝子が卯年生まれの小彌太のため、 丸平大木人形店の5世大木平藏(1886-1941)に制作させた御所人形が本展の主役である。58体の三頭身の稚児たちはいずれも白や金の兎の小さな面――明らかに顔を覆えないのはご愛敬――を額に着けている。「餅つき」、「輿行列」、「宝船曳」、「楽隊」、「鯛車曳」の5つの場面で構成され、とりわけ波兎が船首像として取り付けられた宝船が曳かれている「宝船曳」がハイライト。宝船に乗る七宝袋に靠れる恰幅のよい布袋が印象的だ。李培雨と堂本印象の兎の絵とともに、渡辺始興の野兎図に取材したという7羽の兎を描いた、香取秀真《群兎文姥口釜》も展示されている。《群兎文姥口釜》の環付がは杵の形をしており、でっぷりとした釜の形は搗き立ての餅であるらしい。月で餅搗きをする(仙薬を作る)兎の伝承を介して、月へと誘う。

「第3章:うさぎと新春の美術」で目を引くのは、池大雅《寿老図》。縦に長い画面の上半分に大きく余白を取り、飛翔して見下ろす鶴を1羽表わし、下半分に頭の長い寿老人を紙幅一杯に描いている。寿老人の背後には飛翔する鶴を見上げる鶴と、霊芝を盛った皿を手にする童子が描かれる。初代大樋長左衛門《飴釉重餅共蓋水指》は、手捏ねと篦削りにより表わした重ね餅の形の水指。独自の飴釉により赤茶、緑などを呈する器体は、鏡餅が蜷局を捲く蛇(「かが」)に由来することを想起させる。樂慶入《赤樂宝尽寄向付》は丁子、分銅、打出の小槌、七宝、宝珠の形とした皿に、白泥で砂金袋、笠、ねずみと巻物、蓑、鍵を描いている。とりわけスライムのような宝珠の器形と雷文のような鍵のワンポイントが愛らしい。《蓬萊蒔絵香合》は正方形の蓋に松と竹の生える島と鶴と亀を表わす。ユートピアは島であるという想像力の系譜。対して、貫名海屋の《蓬萊山図》は岩に生える松とその間の水の流れ、背景に切り立つ山を描く。島の姿は見えないが、この絵画自体が切り離された世界なのだろう。《金海洲浜形茶碗》の州浜もまた、島は海(浜)に囲まれていることから、一種の島の表現と言える。古九谷様式の有田焼《色絵円窓文樽形徳利》は、赤い線でハートの形(「猪目つなぎ」)が器を埋め尽くしている。現在では正月というより、ヴァレンタインを思わせる。

「第4章:七福神と初夢」は、浮世絵や印籠・根付を中心とした展観。目を引くのは酒井抱一が手鑑として描いた富士山――青い画面の左下に金雲の靡く白い富士、右上に大きく赤い円――の簡潔さは、その抽象性によって古びることなく、箱根駅伝のポスターなどに遇われそうである。ぬいぐるみのミュージアム・グッズで話題となった《曜変天目》も展示されている。